茉莉花

□甘い一滴になれたら
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現パロ。名前変換なし。
始まるか、始まらないか、そんなお話。
※夢要素少なめかもしれません。










あの人だ──
コーヒーを淹れながら、宗次郎はちらりと彼女を見つめた。


手入れの行き届いた柔らかそうな髪。丁寧に施された化粧。シンプルなブラウスにスーツ。落ち着いた物腰で彼女はシフォンケーキを口に運ぶ。

…彼女の名前を、僕は知らない。でも、笑顔が素敵な人だなと感じていた。



ここはとあるカフェ。
オフィス街にあり、レトロで落ち着いた雰囲気の店。僕はここでアルバイトをしていた。
ランチやディナータイムもあるから、比較的お客さんは多い。合間のこの夕方時に訪れる人も結構いる。




「食後のコーヒーをお持ちしました。」



常連のお客さんのテーブルにつく。



「あらぁ〜、宗ちゃん♪今日も可愛いわね〜!」

「ちょっと…!瀬田さん、毎回すみません。」



いつも来てくれてる、お姉さん?の本条さんと、慌てて彼女の態度を嗜める神谷さん。



「可愛い男の子を褒める、これの何がいけないわけ?」

「場所を弁えなさいって言ってるの!」



いつものやり取りについ笑みがこぼれる。



「いいえ、構いませんよ♪いつも来てくださるので、楽しみにしてますから。」



──あの人にも、そう言えたらな…。そうしたら、笑顔を向けてもらえるのかな。あの時みたいに。

つい、そんなことを考えてしまう。



「…ね、ね♪宗ちゃんさー。」

「はい?」

「彼女とかいないの?」



「やだなぁ、急に。どうしたんですか?」

「いやね〜?最近宗ちゃん色気が出て来た気がするのよね。女の勘ってやつ?」

「色気?ですか?」

「薫もそう思わない?」

「うーん…たしかに、って何言わせるのよ!でも瀬田くんのこと好きな女の子ってたくさんいそうよね。」

「そうそう、私もそう思うー♪ね、学校とかに可愛い子いないの??」



「可愛い女の子はたくさんいますよ。…でも」





でも…僕が気になってるのは…

考え込むように目線を外すついでに、すっと奥のテーブルの彼女を窺う。
彼女は静かにティーカップを傾け、そして紅茶を一口。間を置いて一瞬だけど、満足気に表情を綻ばせた。


──期待の眼差しを向けるお二人に、見とれた光景を悟られないよう笑顔を向けた。



「…ご想像にお任せします♪」








* * * * *





「あ、瀬田くん、レジお願いしてもいいー?」

「はーい。」



入口は硝子扉になっているから、空なんかをついちらちらと眺めてしまう。今日は綺麗な空模様だ。



(…あ。あの人だ。)



伝票を受け取る。細く白い指先にはシンプルなフレンチネイルが飾られている。



「ご馳走様でした。」



お会計を澄ませると、ふんわりと澄んだ声が届く。
戸口へと歩を進める彼女の綺麗な髪が靡く。花のような優しい香りが鼻先を擽った。





 

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