かぐやひめの時渡り

□竹からこんにちは
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「あ!ちょっとボウヤ!」

「?どうかしたんですか、由美さん。」


由美に呼び止められ、宗次郎は振り向いた。


「ちょっと手伝ってくれない?」

「何をです?」

「…部屋の模様替え♪」


由美は掌を合わせ苦笑いで宗次郎に告げる。


「え?いやだなぁ、どうしようかな…」

「お願い!一人じゃどうしようもないの!」

「それじゃあ一月、甘味処でおごってくれます?」


にこっと微笑む宗次郎。


「え、それはちょっと…」

「じゃあ一人で頑張ってくださいv」

「わかったわよ…」


依頼者側なのに渋々承諾する由美であった。




「…由美さーん、これは何処に置きましょう?」

「あ、それはちょっとそこに置いといて!」

「わかりました。」


埃のせいか、宗次郎は突然咳き込みだした。


「…けほっ、けほっ…!」

「大丈夫?ボウヤ。」

「え、ええ…」


埃に悩まされながら、宗次郎が箪笥をどけると――


「あれ?」





「何だろう…?」


一冊の古びた本が落ちていた。宗次郎は本を手に取り、じぃーっと観察する。


「古い本だなぁ…」


パラパラッとページを開いてみる。


「…読めないや。」

「どうしたの、ボウヤ?」

「偶然見つけたんですよ。」

「何の本…?」


由美は宗次郎から本を取り上げると、ページをめくった。


「あ、この本ね。」

「これ、『竹取物語』の本よ。ボウヤも知ってるでしょ?」

「…知らないです。」

「えぇ!?『かぐやひめ』よ?」


驚いた様子で由美は叫び、本を読み始めた。


――いまは昔、竹取の翁といふもの有りけり。野山にまじりて竹を取りつゝ、よろづの事に使ひけり。名をば、さかきの造となむいひける。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。…


「…っていうのが始まり。わかった?」

「要するに、竹取のおじいさんが光る竹を見つけて中を見てみたら、ちっちゃな女の子がいた、っていう話なんですね?」

「ええ、そうよ。」

「おもしろそうな話ですねv」






翌日。宗次郎が廊下を歩いていると、またもや由美が声を掛けてきた。


「あ、宗次郎!」

「由美さん?」

「ちょっとおつかい頼んでもいいかしら?」

「ええ、構いませんよv」






「えーと、かすていらって何処に売ってたかなぁ。」


独り言を言いながらアジトを出た宗次郎は、山の中を歩いていた。


「確かあの辺りだったかなぁ……あれ?」


宗次郎は思わず足を止める。
そして山の奥の方を見つめた。


「何か…光ってるのかな?」


不思議に思ったが、宗次郎は誘われるように山の奥へと入っていった。
やがて光っているものを発見すると、宗次郎は目を丸くした。


「…あれは………竹?」


なんと、一本の竹が光り輝いていた。しかも光っているだけではなく、大木程の太さの竹である。宗次郎は目を疑った。


「……おかしなこともあるんだなぁ。」


びっくりしながら竹に寄ると…

――パッカーン!


「わぁっ!?」


珍妙な音と共に、竹から眩しいほどの激しい光が溢れ出し、宗次郎は目をつむった。


「…!」



いつまでそうしていただろうか。瞼越しの視界から光が止んだと悟り、目を開けようとしたその時、


「あなたはだぁれ?」

「……え…?」


急に目の前で声がした。宗次郎がおそるおそる目を開けてみると――


「あ、あなたは…?」


一人の少女が立っていた。驚きのあまり、宗次郎は思わず言葉を失っていた。



 

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