◇御題小説

□ピクニック
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ごとり。
高松の目の前に、リュックから取り出した漆塗りの大きな重箱を置く。

「はいどうぞ」

途端に彼は青ざめて、僕と重箱を交互に見やった。
その瞳は疑いの眼差しっていうか、冗談と本気を見極めようとする色。
さすがの僕でも頭にくるものがあって、頬を膨らませて高松を睨み付けた。

「何見てるの?食べないの?」
「失礼ですが…これは、見た目そのままでお弁当ですよね?」
「それ以外に何が入るわけ?生首でも入れてくると思うの?高松は」
「いいえ。…私はグンマ様に危険な包丁を持たせるなどしましたっけ?」
「してないね。このお弁当は、僕が本を見ながら拵えた最初で最後の高松だけのプレゼント!」
「グンマ様が私だけにっっ!?」

ぶしゅーっ。
予想通り、晴天の空から赤い雨が降った。僕は用意していた雨傘で咄嗟に身を守り難を逃れるが、雨を浴びた上に興奮し過ぎた高松はばったりと倒れてしまった。

「高松、生きてるぅ?」

返事どころか反応もない。完全に気絶してしまったようだ。

「まったく。折角のピクニック台無しにするなんて、あとでお菓子買ってくれないと許してあげないからね」

くすり、と笑う。

真っ赤な真っ赤な高松の顔は、幸せそうに呼吸をしていて。
リュックからウェットティッシュを取り出すと、丁寧に顔を拭いてあげた。

「やっぱり、高松は可愛いなぁ…」

彼の胸が上下するたびに、唇にかかった黒髪が弱々しく揺れる。
その、とても艶やかな色香が、僕を誘惑する。

「綺麗だね、高松は」

育ての親だろうと家庭教師だろうと、そんな障壁は崩れて無くなってしまえばいい。
こんなに無防備な高松を前にすると、僕の理性なんて吹き飛んでしまう。

邪魔な髪をそっとどけると、薄く開かれた唇へ舌をねじ入れた。
これが、初めてのキス。
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