◇小説
□静かな夜、聖なる夜に、あなたに
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サイレントナイト
ホーリーナイト
今日は特別な夜だから願いを叶えてください、だなんて。
僕はきっと今
世界中で一番
醜い姿をしているんだ。
『静かな夜、聖なる夜に、あなたに』
ぱたぱたと音を立てて廊下を駆ける。
といっても走っているんじゃなくて、歩いてると言える範囲で最大の速度を出して移動しているだけ。
開発課の視察に訪れたガンマ団支部は『有事以外は走るの禁止』という貼り紙が至る所にあるものだから、なんとなく従ってしまう。
今日はクリスマスイブ。
みんな早く終業して愛しい人に会いたいのに。
「ぶー。あとは誰でもいいから偉い人に書類渡して僕も帰ろう」
僕を伴って一緒に支部に出向いたキンちゃんも、まだどこかにいるはずだ。
時刻はまだ夜8時。
神経質で几帳面で大切なことは二度繰り返す彼が、僕より早く用事を済ますだなんて考えられない。
「あんな真面目な顔で話し込まれたら相手も切り上げられないよ」
今日は徹夜で話し合いかも。
そう思うと、寂しいイブを過ごすのは僕だけじゃないと思うと、空っぽの心がきゅっと締め付けられて震えた。
嬉しいような、それでも悲しいような、複雑な感じ。
「やっぱり、ちゃんと担当者に渡そうっと。なるべく執務室にいるって言ってたし、見つからなかったら内線で呼んでもらおうっと」
そう決めたら、きょろきょろ周囲を伺うのを止めて、目的地だけを目指す。
その間、両足は止まることはなく忙しく早歩きを続けていた。