◇御題小説

□幸福論
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幸福とは、心配や不安や後ろめたさなどの負の感情が何一つなく、ただ満足だけを感じる状態のこと。

ならばグンマと開発に打ち込んでいる俺は、その典型的な例だ。
この俺がいる限り設計ミスや配線間違えは起こるはずもなく、楽しそうに工具を操るグンマと作業をしているだけで、俺は満ち足りている。

「キンちゃん。この導線は一体どこから出てきたんだか見当つく?」
「それはボディの…ほら、ここだ」
「あちゃー。結構長すぎたな」

作業過程での何気ない会話すら、俺の幸福を存分に刺激する。
正確には、あいつが笑いながら俺の名を口にするだけで、だが。

ふと見上げると研究室の時計が三時を指していた。
お得意の発明に没頭していても適度な休憩は必要だ。
グンマに呼び掛けそれを告げると、スランプによくある煮え切らない返事が返ってきたので、研究員に後を任せて腕を引いて連れ出す。

「放して」
「断る」
「もう少しで配線が繋がるんだよ」
「何十分もその状態だろう」
「…」
「…」
「んじゃ食堂行って、メロンスペシャルケーキおごって」
「ああ」

その程度の要求など、お前のためならいくらでも飲む。
俺はグンマに甘いとシンタローに言われたことがあるが、あいつの笑顔を眺め続けたいというのが望みなのだから、咎められる理由はない。
そう考えている間にも、ポケットに手を入れつんと顔を反らしたあいつの表情は、笑みを隠すようにぎこちない。してやったりというところだろう。
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