◇御題小説

□いつか見た空
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いつか見た空は、青く澄んだ海のようだった。
ところがここはどうだ。くたびれた灰色の煙が尊大に空を覆っている。
俺らに吸わせる空気なんざねぇ、とでも言いたげだ。

当たり前の話。
この町に巣食っていた問題ばかり起こす武装勢力を壊滅させた。この町の市民と一緒に。

もう少しいい方法はなかったのかと何度も思うが、その可能性もこの考えも、すべてをくだらないと吐き捨てる。

割り切ろうぜ、いい加減。
俺は総帥なんだからな。

自らの指一本の指示で壊滅させた灰色の前線に降り立ち、瓦礫を踏みしめて、一般兵と共に生存者を探す。
罪悪感なんて惨めな感情からではなく、新兵器のデータ収集を行いたいというキンタローに同行したまで。
俺もアイツを見張らなくてはならない。

連続した銃声が遠から響いた。生存者にビビった新米兵が乱射したのだろう。
あるいは屍を銃を構えた敵と勘違いしたのかもしれない。

隈無くあたりを見回していると、キンタローが崩れかけた民家を調査しているのが視界に入る。
何をしてると尋ねれば、破損の度合いを調べていると、馬鹿丁寧な答えが返ってきた。

「危ないぞ」
「問題ない。もとから威力を抑えていただけあって、触れた程度では崩れないからな」

これだから、科学者連中は嫌いだ。

この灰色の瓦礫の山を誰よりも望んでいるくせして、自分たちには危険など何一つ迫らないように、くだらない理屈と不似合いな権力をこねくり回す。
誰かの命など、保身と他人への糾弾の手段としてしか考えていない、やたら頭の回る奴ら。

いっそのこと、そいつらを駆逐したら未来は変わるのかもしれない。
そして武力をもつ者を消し去って。
次は宗教結社。
んで国境。
それで…。

いったいいくつ無くなりゃ未来は変わるんだ?

なぁ、パプワ。
お前が今の俺を見たら何と言うだろうか。
俺も、あいつらとちっとも変わらないと非難するのか?

この空は、町は、俺の心は、俺が灰色にしちまった。

そっちに行かせてくれよ、パプワ。
この世界は俺が望んだものじゃない!


見上げたって何も変わらない壊滅した景色の中で、俺はただ、立ちすくんでいた。



END

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