◇御題小説

□地図
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地図を持って出掛けよう。誰にも見つからない場所へ。
印なんてつけずに歩き続けよう。誰にも見付けだせない宝箱を埋めるために。


そっとガンマ団の廊下を歩く。
セキュリティシステムは明日の午前七時までは起動しないよう完全にシャットアウトしてきたから、足音に気をつけるだけ。
ガンマ団を強化するのも破壊するのも、もはや力を持たない科学者なのだと、改めて理解させられる。
だって今敵を引き入れれば総帥が不在中の本部はあっという間に浮き足立ち、更に科学者が寝返ればここは壊滅する。
この場合の科学者は僕。

アタッシュケースを抱える両手に力をこめる。
何しろこれが、これから先の僕の運命を握っているのだから。

研究棟の外部への出入口が近くなり、心なしか夜風がここまで届いている気がした。
距離にすればまだ1キロメートルはあるはずなのに。

それでも、出口は確実に近付いている。
例え、微かな月明かりの下の深い闇だとしても。
僕が盲目的な科学者でも。
出口は近い。

ひたひたと電灯に照らされた清潔な廊下を進みながら、ふと思う。
シンちゃんも秘石を奪って脱走したとき、こんな気持ちだったのかな。
一歩一歩がもどかしくて目的地しか見えなくて、楽しかった思い出なんて皆捨てていってもいいなんて考えて。
ただ、出口という単語が思考を支配する。
でも、僕は追っ手を蹴散らして逃げてるわけじゃないか。
力と頭脳、使う場所が全く違うんじゃ考えも違うよな。
きっとこんなに冷静なのは僕だけだ。

僕には長い準備期間があった。
ガンボットの改良を隠れ蓑に、セキュリティシステムに侵入し本部の地図を入手して何度もシミュレーションを行なった。
そして、鍵となる重要な物も秘密に開発した。

ガンマ団に恨みはない。シンちゃんにも、キンちゃんにも、コタローちゃんにも誰にも恨みはない。
アタッシュケースの中身は、僕の安全を保障するただの保険。

ドアが目前に現われた。研究員しか利用しない存在感の薄い出入口。
ここのロックは大元のセキュリティシステムと連動していないので、僕はいつもどおりに解除する。
プシュッと鳴る空気音が今はとても心地よい。

僕は笑みを浮かべて外の世界へ足を踏み出した。
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