◇御題小説

□精神安定剤
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ガンマ団を視界に収める丘の上の大木に背を預け、時計を見やれば午前十時。
煙草を取出しくわえたところで、待ち人は姿を現す。

くまのある瞳に、乱れた金髪。美しい顔は見る影もなくやつれている。

「高松」
「終わりましたよ。関係者は全員買収しました」

親友のためにはたいた多額の金で二人が手にしたのは共犯者の落胤。
巻き添えにされたなどは、思っていないけれど。

「気は済みましたか?」

問い掛ける口調はどことなく刺を含んでいて、距離は遠い。

「これからだ」

サービスはため息と共に答え、封筒を渡す。高松が中を確認すると厚い封筒には札束が詰め込まれていた。

「入り用だと思うから、使ってくれ」

口止め料。そう言えばいいものを。

「子供は金がかかるだろう」
「あなた、私を復讐の道具としてるでしょう?」

私がマジックの子供を育てることが、と付け足す。

「それは結果に過ぎないよ」
「私はそこまで陰欝ではありませんけど」

マジックを憎いと感じても、その子供へ抱く感情とはまた別というもの。

頭悪いですね、サービス。

「愛情ってもの、知ってますか?」
「いきなり何だ?」
「別に」

ふぅ、と煙と吐く。一筋の紫煙が一面に広がり空へと上るが、やがてゆらゆらと拡散していく。

あなた、みんなに無償で愛されていたから、その代償を知らないんですよ。

その言葉も自身の中で拡散していき。
あいさつもそこそこにサービスは高松の前から去った。

遠く帰るべき場所を眺めれば、自分の腕に任せられる未来を、小さな子供が待っているのだろう。
限られた選択肢すら奪われた青の子供が。

「私たち、あのお兄さんの精神安定剤なんですって」

口を歪めて笑うと、煙草を吐き捨てる。

親友に利用された男の立場すら考えることもできないサービスは、与えられているのにまだ愛を欲しがりねだる赤ん坊。

「親になるには早すぎますけど、あなたの成長でも楽しみましょうかねぇ」

さらりと髪を掻き上げ、遠い子供へ笑いかけた。

〈END〉

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