◇小説
□赤い瞳
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熱を伴う痛みに左肩を押さえ、僕は高松を見上げた。
指の間からぽたりと落ちる、温かい液体、赤い一筋。その温度が嘘だと思うくらい、喉の奥が冷たかった。
僕は高松の豹変に、この目を疑った。
彼は笑みを浮かべて、右手を振り上げる。その笑顔があまりにも見慣れたものだったから、僕は弧を描くそれを、おもちゃのようにじっと見つめてしまった。
「―ぃやっ」
反射的に後ろへ下がるが間に合わず、ピシィッ、という音と共に首筋に熱が走る。
そしてまた襲う、鋭い痛み。
これは、現実だ…。
「お逃げになりませんと、当たりますよ?」
「高松…」
何故、と理由を聞きたいのに、体が震えて喉から冷えた空気しか出てこない。とても苦しい。
彼の右手には、黒く光る鞭。蛇のようにうねるけど、生き物ではない。あれは、高松の意思で弧を描く。僕の体に痛みと傷を与えるために、僕へと向かってくる。
僕にはそれが、何を意味するのか理解できない。
高松に呼ばれて彼の研究所の更に奥、デスクと椅子だけの広い空間に通されて。何の用?と振り返ると、何かで打たれた。それが鞭だって気づくのに大した時間は要らず、今はただ、痛みで冴える頭で、理不尽な痛みに恐怖するだけ。
一体どうしたの、高松?
「高松、そういうことしたいなら、僕じゃなくて研究員を誘ってよ」
「ふふ。そんなに震えちゃって。可愛らしい」
「…ついにおかしくなったの。高松」
「その美しさ、白衣の天使とでも申しましょうか…!」
会話が通じない。僕の問いに答えを返してくれないなんて、おかしいよ。
「ねぇ、高松…」
「黙りなさい」
呼びかけを無視して僕の胸元目指し、長い鞭が弧を描く。
それはまるで蛇のようで、恐怖だか痛みだかに耐え切れず、尻餅をつく。
ぴちゃり。
肩から流れた鮮血が滑らかな床ではじける。上着を見ると真っ赤だった。
「まったく、汚してはいけませんとあれ程申しましたのに」
カツカツと音を響かせ近付いてしゃがみ込み、僕の襟を掴むと頬を叩いた。呻きが漏れるが容赦なんてしてくれなくて、平手で何度も何度も頬を叩く。
「あなたが、」
パシッ
「汚れるなんてっ」
パンッ
「許しませんよ!」