◇小説
□万華鏡
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まだ少年と呼ぶにはあまりにも幼く、愛らしい顔立ちを歓喜でいっぱいにした子供が、黒髪の青年の左手を握りながら町を歩いていく。
青年は暗く微笑み、小股で歩幅を合わす。
お星さまをぜーんぶつかまえて、おうちに持って帰るの!
子供はこれから目にするものに、思いを馳せている。
市街地にあるプラネタリウムが、彼らの今日の目的。
たかまつも手伝ってね?
青年は深く頷き、子供が転倒しないように足元に気を払う。
そうして辿り着いた会館には、残酷な看板が無造作に立てられていた。
『本日休館』
子供は顔を真っ青にして、驚愕した。
ぐしゃぐしゃに顔を歪ませて、泣きじゃくる。
やがて人目が鋭さを増した頃、今まで無言でいた青年は、子供を抱き上げもと来た道をひた戻る。
帰り道できらきら煌めく万華鏡を買い与えると、目を赤くした子供はもう取られまいと急いで飛び付き、小さな両手で筒を握り締めた。
くるくると回せば、変わる世界。
振ってみても、色褪せない世界。
それでも全く同じに変化することはなく。
子供の意志で、過ぎ去る色。
次に待ち受ける色は、一体何色?
ねぇ、たかまつ。この中の青いしかくいのがほしい。
お手を入れても取れませんか?
手がはいらないよ。いれる場所がないよ。
なら、道路に投げ付けてごらんなさい。青だけでなく、総てが飛び散りますよ。
それじゃあ、こわれちゃう。
ですが、ご執着の物が手に入りますよ。
でも、でも…。
欲しいんですか?どうでもいいんですか?どちらです?
子供は青年と万華鏡を見比べ、口を開く。
ぼく、青いのいらない。