◇小説

□赤い瞳
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「痛いっ! 止めて高松!」
「お黙りなさい!!」
「あぐっ!?」

苦しい!

手を這わせて抵抗すると、首を絞められていた。高松の大きな手が血だらけの僕の傷に食い込み、骨が悲鳴を上げる!

「っぁ…!」
「私はですね、グンマ様」

勢いよく床に押し付けられ、息が途絶え、脳が震える。気持ち悪い。吐きそうだ。
高松は僕の上に乗り上げ、首への圧力を緩めながら、耳元に囁きかける。

「あなたのこと愛していますよ」

こんな場合でも、彼の吐息は甘い。

「…かま、…っ」
「あなたが私のことどう思っていようと、文句は言いません」

最低限の呼吸だけを許され、彼は正気なんだと分かると、余計に怖くなって小さい悲鳴が漏れた。

「ですがねぇ…」
「っあああ!」

彼が左肩の傷に爪をたてた。
肉を抉らんばかりの指が食い込み、白い骨を掴む。

「どなたにも、渡しませんよ」

キンちゃん!

叫びたかった。大声で彼の名を呼んで、気をつけってって言いたかった。
高松がキンちゃんに何かするかもしれないと思ったから。

ぶじゅっ。肩から嫌な音がした。骨伝道で首から届く軋む音が、僕の意識を蝕み始める。

高松、やめて!

「ああ、ついでだからお聞きしましょうか」

こんなときにも彼の声は心地よく、まるで麻薬のように幸せな幻覚が姿を現す。
僕とキンちゃんと高松と…。

彼の顔が鼻先にあった。柔らかに微笑みながら、しかし普段の彼とは全く別人の影が光を遮り、視界を奪う。

「私は、あなたにとってどういう存在ですか」

答えなど聞く気はないくせに…。

闇へ引き込まれる直前、からりと晴れた視界の中に見たものは。

暗く淀んだ、一対の赤い瞳。

END
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