◇小説
□あなたは人魚
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「高松、話がある」
開口一番、キンタローは扉をロックし、抑制した声音で言った。
ここは幹部といえど容易に立ち入ることは出来ない高松個人の研究所で、ガンマ団から独立していると言っても過言ではない。
この研究室は、まさにマッドサイエンティストの巣窟であった。液体に満たされた巨大なガラスケースは何列にも並べられ、そのすべてにパイプを通された歪な塊が浮かんでいる。
キンタローが顔をしかめたのは明らかに人間の一部と見て取れる、ふやけたモノが視界に飛び込んできたからだ。
暫らくするとパイプ椅子が軋む音と共に、
「ちょっとお待ちくださいね」
と目当ての男の声がした。
がさがさと書類を整頓しているらしい。幹部の自分に見られては都合の悪いものでもあるのか、と踏み込みたい気持ちを押さえて、空いた空間を眺めていた。
「お待たせしました」
ふと顔を戻すと、すっかり科学者らしい白衣を羽織った高松が、片手を挙げてあいさつしている。
「随分手荒い視察ですね。ロックはどうしました?」
「開いていたからここにいるんだ」
「あぁ、そうですか。不用心な」
お茶を濁すつもりなのか、冷ややかな目元に口だけの笑みを浮かべて、肩をゆらす。
何がおかしい、と目で問うと、曖昧な言葉ではぐらかされた。
「それより、ご用件は何ですか?本当に視察だなんて仰らないでくださいよ」
「何か知られてはいけない研究でもしているのか?」
「それは一体どのような研究を指すのでしょうね。団員を使った人体実験でさえ許されているのに」
また、薄く笑う。
キンタローは自分が馬鹿にされているのだと気付くと腕を組み、睨み付けた。
「おや、怒らせてしまいましたか。キンタロー様はお気が短い!」
「高松、ふざけるな」
意識的に左目を細めてやると、上機嫌な高松もさすがに口を閉じる。
しかし、相変わらず口元は冷やかしの色を灯したままだ。