◇小説

□あなたは人魚
2ページ/4ページ

「一度貴様とゆっくり話がしたいと思ったんだ」
「へぇ…。それはグンマ様に関することですか?」

図星だ。
相手に小細工は通じないと判断すると、白衣の右ポケットに手を入れ、落ち着き払った態度で高松を見据える。

「お前は、俺とグンマが一緒にいるのが気に食わないらしいな」
「とんでもない!私の愛しい子供たちが想い合っているのですよ?喜ぶべきことではありませんか」
「お前の態度を見てると、そうとは思えん」

相変わらずの言葉の中に何か引っ掛かるものを覚え、キンタローはなかなか主旨が言い出せない。
高松の慇懃無礼な態度には、自分とグンマに対する愛情の他に、キンタローには到底理解出来ない感情が混ぜこまれているのだと思った。

それは一体?

「確かに、アイツの二十四年間を埋めたのはお前しかいない。後見人とはいえ、青の一族ではない立場は辛かっただろう。だが、今は違う」
「違いません」
「今のアイツには、シンタローや前総帥にコタロー、ハーレム叔父貴にサービス叔父貴や、あのパプワ島で出会った者たちがついているんだ」
「…幼稚なお考えですね、キンタロー様」

薄い笑いで一蹴すると、その瞳はキンタローを射ぬくかのように鋭くなる。

「あの方を、殴る蹴るしか知らない猛獣の群れの中に置いておけますか?」
「いい加減、子離れしたらどうだ?」

両者の問いがぶつかり合い、そのまま四散する。

向かい合っているというのに言葉はまるで噛み合わず、いたずらに主張だけを口にする二人。
それでも想う者が同じというのは、ただの苦痛でしかなくて。

ふぅ、とキンタローはため息をつき、迷いを振り払う。

今はこいつと揉めている場合ではない。
一刻を争う事態だ。
返答によっては目前の人物が最重要人物に変わる。

ただ、悪寒がする。
何故だか、俺は、既にこいつの返答がとても恐ろしいものだと確信している…。

「高松」
「はい」
「グンマは」
「はい」
「どこだ?」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ