◇小説
□あなたは人魚
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グンマがいなくなった。
五日前、キンタローへオヤツの差し入れをしたのを最後に。
最初は、気分転換に散歩にでも出掛けたのだと考え、一日が過ぎても外泊したのだろうと大して気にもしなかった。グンマは立派な大人だし、それなりの分別はある。そして普段の彼の積極的な性格からはありうることだと判断したからだ。
しかし三日が経つと、これはおかしいと気付く。
シンタローとキンタローは極内密に身近な団員から情報を集め、防犯カメラの映像と照らし合わせた。
彼の最後の足跡は高松の研究所。
二人に何があったのかは全く想像がつかないが、研究を放り出し欠勤報告もしていないグンマに現総帥から直々の召喚がかかり、それをキンタローが伝えにいく形となった。
「グンマ様のことは、キンタロー様の方がよくご存じだと思いますが」
「俺が分からないからお前に聞いているんだ」
「おやおや。妬ける台詞ですね
」
高松は口元を大きく歪め、
「でも、あなたもう知ってるんじゃないですか?」
髪を掻き上げる。
こくり、とキンタローは息を飲み、どういう意味だと口を開きかけ、止めた。
二人の間を駆け回る空気は体温と同じに生暖かく、歪で、掴みどころがない。しかし、そこを行き来する結論は一つ。
再び悪寒がして、冷汗が流れる。
緊張が感覚を研ぎ澄まし、ガラスケースに満たされた液体が、ゴポ、と空気を摘み出す音が鮮明に聞こえる。
思考が、冴え渡る。
何を考えている。
キンタローは自分に問う。理性の制御を外せば、結論は喉の奥で明確な文を紡ぎだす。
白衣がひらりと舞い、彼に近付いた。
踏み込め!
どん!
キンタローは高松を力一杯押し退けて、意図的に配置されたガラスケースの収束地へ向けて走りだす。奥へ奥へ進んでも、そのどれもが気味の悪い位、一様に彼の姿を映し出していた。
「グンマ!どこにいる!?」
声が裏返る。
自分の足音がやけに大きく響き、喉が乾く。
「グンマっ…!」
―キンちゃん!―
ガラスケースの並木が晴れ、眩しいほどの照明が一瞬だけ視界を奪う。
「っ…」
腕で庇いながらそっと目を開けると、そこにはきらきらと輝く大木があった。