◇小説

□万華鏡
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「ぅわぁああぁぁぁぁあぁぁぁっあぁあぁぁぁ!!放せえぇぇぇっっ!高松ぅぅーー!!」

ベッド上から発せられる、狂った叫び声が耳を打つ。そんなに大音量でなくても聞こえているのだが、彼にそれを伝える気は毛頭ない。
断末魔に似たグンマ様の美声は、飢えた私の欲望を十分に満たすから。

心底悦びながら寝室のロックを掛け、彼の下腹部に腰を下ろすと、彼の固くなったものがズボン越しに私の臀部を刺激した。

「あ…ぁっ。このポジション案外いいですね…」
「ふざけるなぁぁぁあぁっ!」

激昂し全身で抵抗しようとも、ベッドに拘束されたか細い手足はいたずらに鎖を鳴らすだけ。
彼を何度犯しても、懲りずに藻掻き脱出を図る。
罰として服を剥いで焼却し、勃ち上がらせたまま一時間放っておいたが。

色香が増した他には、効果はおきなかった。

「もう一度、致しますか?」
「ああぁあぅうぁぁぁあぁぁわあああぁぁあぁああぁっ!!!!」
「えーっと。今のは賛成とみてよろしいのでしょうか?」

彼は答えた。
理性を失った獣の咆哮で。

「お互い、野性に戻りませんか?何もかも投げ捨てて、自然そのままの姿に」

彼は叫ぶ。

「つらいのは現在でしょう。過去に戻れば総てが無くなり、希望に満ちた世界だけが広がるのですよ」

彼が鳴き止んだ。
かすかに血の匂いがする。

「何一つ不幸のない世界へ、二人で還りませんか?」
「不幸せだ」
「何が?」
「高松は、僕を傷つけるために育て上げたんだ」
「それは妄想です。あなたは悲劇のヒロインではありませんよ」
「高松は、僕を育てながら傷つけ続けたんだ!」

瞳から溢れる涙。
舐めて味わえば、海水を連想してしまう。

グンマ様って青の一族なんですね。
真っ赤に腫れて濡れた青い瞳は、私の大好物。

「過去は今より不幸だ!」

白い歯がてかりと光り、赤い舌がちらりと覗く。
意思に満ちた両の眼は、私を真直ぐに見据えている。

「僕は、高松からもらった総ての物を、とっくに捨てたんだよ!」

あの万華鏡も?
あれは、特に高価な品物なのに。
あの時のあなたの無細工な面を、記憶のみにしか焼き付けられないことを、どれだけ悔やんだか。

「君のことなんて、忘れてやるぅぅ!」

それだけ叫ぶと、また狂った絶叫が喉から飛び出る。
感情の定まらない美顔は、ぐしゃぐしゃどころか恍惚とした表情に見えて。

至福の時。

私はただ彼に見惚れながら、慌ただしくその手枷を解いた。
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