◇小説

□甘いもの
2ページ/2ページ

「トリックオアトリート!」

とんとんと行儀よくノックして、総帥室に侵入!
エプロン姿のシンちゃんと、背広姿のキンちゃんと、何やら交渉中の秘書たち。

シンちゃんが僕を見て、にんまり笑って紙袋を投げた。

「悪戯小僧はそれ食って帰れ」
「うわぁい!ありがとうシンちゃん!」

手のひらに伝わる、しっとりとした温かみ。
がさがさと開ければ、黄金色のパンプキンパイが顔を覗かせる。

「グンマ。俺からはクッキーだ」
「ありがと、キンちゃん」

貢ぎ物を高松に回してチョコレートロマンスへ視線を移せば、おどおどしながらもお菓子の詰め合わせが差し出される。

「…ティラミスは?」

両手を出して催促しても、何も返ってこない。
そう、君は何も用意していない。

「おいおいティラミス!お前去年も忘れたよな!」

シンちゃんが豪快に笑い、彼の背中を叩いて押し出す。

そんなことは知ってるよ。
さぁ、おいでませ。

僕はそれを受け取った。

「高松に遊んでもらえよ!」

トリックオアトリート!
お菓子がないなら悪戯するからね!

「もう!ティラミスは忘れん坊さんだなぁ」

口を尖らせれば、疑う人なんているわけない。
お菓子を忘れた君が悪いと、みんな合掌するだけさ。

「それじゃあ、借りていきますね、総帥」
「借りてくねー」
「あーハイハイ。ついでに親父ん所に返してくれよな」

そのくらい、お安い御用。

ちらりとティラミスに目配せすれば、微笑みが返ってくる。

君と僕の秘密の会話。
誰も知らない真実は、交錯しては絡み合う。
君は心で笑ってる。

行こうか、ティラミス!
甘いあまいお菓子の秘書殿。
ティラミス。

君はお菓子を忘れ続ける。
僕は君を連れ帰って悪戯する。
毎年だよ。約束なの。


トリックオアトリート。
甘いものを頂戴。



甘い名前の君を頂戴!

<END>
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ