◇小説
□甘いもの
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「トリックオアトリート!」
とんとんと行儀よくノックして、総帥室に侵入!
エプロン姿のシンちゃんと、背広姿のキンちゃんと、何やら交渉中の秘書たち。
シンちゃんが僕を見て、にんまり笑って紙袋を投げた。
「悪戯小僧はそれ食って帰れ」
「うわぁい!ありがとうシンちゃん!」
手のひらに伝わる、しっとりとした温かみ。
がさがさと開ければ、黄金色のパンプキンパイが顔を覗かせる。
「グンマ。俺からはクッキーだ」
「ありがと、キンちゃん」
貢ぎ物を高松に回してチョコレートロマンスへ視線を移せば、おどおどしながらもお菓子の詰め合わせが差し出される。
「…ティラミスは?」
両手を出して催促しても、何も返ってこない。
そう、君は何も用意していない。
「おいおいティラミス!お前去年も忘れたよな!」
シンちゃんが豪快に笑い、彼の背中を叩いて押し出す。
そんなことは知ってるよ。
さぁ、おいでませ。
僕はそれを受け取った。
「高松に遊んでもらえよ!」
トリックオアトリート!
お菓子がないなら悪戯するからね!
「もう!ティラミスは忘れん坊さんだなぁ」
口を尖らせれば、疑う人なんているわけない。
お菓子を忘れた君が悪いと、みんな合掌するだけさ。
「それじゃあ、借りていきますね、総帥」
「借りてくねー」
「あーハイハイ。ついでに親父ん所に返してくれよな」
そのくらい、お安い御用。
ちらりとティラミスに目配せすれば、微笑みが返ってくる。
君と僕の秘密の会話。
誰も知らない真実は、交錯しては絡み合う。
君は心で笑ってる。
行こうか、ティラミス!
甘いあまいお菓子の秘書殿。
ティラミス。
君はお菓子を忘れ続ける。
僕は君を連れ帰って悪戯する。
毎年だよ。約束なの。
トリックオアトリート。
甘いものを頂戴。
甘い名前の君を頂戴!
<END>