◇小説

□この道に在る
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途端に数の減ったオモチャは、記憶にないものばかりだ。流行のゲームソフトやカード、知らないキャラクターのキーホルダーはまだしも、高松が買い与えたのだろう植物の種や女児向けのぬいぐるみ、著名人の詩集などが床に転がっている。
しかしいくらそれらをいじくっても、ほんの一瞬記憶の疼きを感じるだけで、それを手にした当時の感情の端っこも思い出せない。

「残念だなぁ…」

カーテンが揺れる。
睫からはらりと灰色の影を零し、寂しげに俯く。

「日記に書いておきたかったよ。もっともっと昔の話も」

手近にあった羊のぬいぐるみを抱き寄せ、窓を見上げる。カーテンから赤い輝きが漏れていた。
工具の思い出に感傷的になっていたせいか、時間の経過に気付かなかったようだ。

西日が床を染める、時刻は夕方。

「いけない!戻らなくちゃ!」

グンマは慌ててぬいぐるみをオモチャ箱に詰め込んだ。
ゆったりと時を過ごしてしまったが、彼にはまだ仕事がある。信頼を一心に背負った若き総帥が不在の今こそ、ガンマ団の中枢であるグンマやキンタローが上手く立ち回らなければならない。

「シンちゃんのためにも!」

拳を握りしめ、大きく頷く。

「普段のペースを取り戻すための休憩だったはずでしょ?」

再度自分の言葉を肯定すると、散らばった思い出を手当たり次第にオモチャ箱に投げ入れていく。
ブリキの人形が箱の中で音をたてようがトランプが折れ曲がろうが、思い入れのないものは目もくれずに掴んでは投げた。
そうこうしていると、目次が開かれた一冊の本が目に入る。
懐かしい、と瞬時に口にして、何気なく手に取った。
ぱらぱらとめくれば、意識が留まるその本は。

「僕の…詩集だ」
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