◇小説

□ひとしおの幸せ
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キンタロー様の不眠症は治る気配がなく、一週間が経過した。
私は毎日問診を行い原因究明とカウンセリングに努めたが、彼が何か決定的な内容を話してくれることはなく、症状が変わることはなかった。

「心因性のものだとは思うんですが……特異な身体ですし、一度お身体の方も調べてみますかね……」

人のいない休憩所で紫煙を燻らせて、私はそう思案していた。
大切な方の問題とあって没頭していた私は、いつの間にやってきたのかもう一人の愛しい方の気配には完全に気付いていなかった。
窓の外を眺める私の背後でソファに腰かけた彼が口を開いたところで、漸くその存在に気付いたのだ。

「誰のこと?」
「っ!? ぐ、グンマ様?」

慌てて振り返る私に笑顔を向けて、彼は尋ねた。

「高松がそんなに真剣になるなんて、初めて見たかも」
「……私、普段そんなにふざけた顔してましたか?」
「ふざけてないよ。なんか、ニヤニヤ笑ってる」

返す言葉がありません!
そんな風に見られていたなんて、この高松一生の不覚!

「それにしてもグンマ様。今日はお早いですね」

時刻は早朝の五時。
夜が明けていないこの時間に、グンマ様はスーツと白衣に身を包み、支度を整えている。

「最近は忙しいんだ。やることいっぱいあって」
「お仕事を頑張るのも結構ですが、キンタロー様のように体調を崩してはいけませんよ」
「キンちゃん具合悪いの?」
「ええ、何でも不眠症が続くとか」
「…ふーん」

かたり、とグンマ様は立ち上がり、

「ごめん、もう時間だから」

と駆けて行ってしまった。

「グンマ様、心当たりがおありなのでしょうか」

思案する私は、逃げるような彼の後姿に、不眠症の原因に彼が一枚噛んでいるのではと推測し……

「まさか、お二人はそういう関係!?」

なんとなく事の顛末を予想して、妄想して、だらだらと鼻血を垂れ流しながら呑気に残りの煙草を楽しんだのだった。
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