◇御題小説

□幸福論
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食堂に着くとグンマに席をとらせ、俺は注文を頼む。
トレイにコーヒーとミルクティーとメロンなんとかをのせて、手を振るあいつのもとへ運ぶ。
満面の笑みでありがとうと言われると、やはり俺はグンマに甘い行動をとるようにたずなを握られている気がしてならない。

「とってもおいしいよ。キンちゃんも、あーんして?」
「俺はいい」
「何で?」

グンマのスプーンが宙でピタリと止まり、不思議そうに眉を寄せる。

お前が一口ひとくち幸せそうに味わうのを、眺めていたいから。
そんなこと、とてもじゃないが口にできない。

「あー!メロンスペシャルケーキだっちゃー!!」

けたたましい声が俺達の間に割って入る。
トットリだ。

「グンマ博士はメロンが好きだらぁか?」

その質問に笑みを浮かべて、

「うん、好きだよ。食べる?」

迷いもなくスプーンをトットリの口に運ぶ。

「おいしいっちゃ♪」
「でしょ〜」

そう言いながら自分も食べてトットリと感想を言い合う表情は、工具を駆使するあの笑顔と完璧に重なる。あいつが一番楽しいことをしている、幸福の表情。

すっかり蚊帳の外に置かれた俺は静かにコーヒーを飲み干し、頬杖をつく。
早く邪魔が消え去るように、じっと睨みつけながら。

グンマが俺を置いてトットリとどこかへ出掛けてしまうのではないか。
グンマは世話焼きな従兄より話の合う仲間を必要としているのではないか。
そう考えた途端、俺の満足感にぽっかりと大穴が空いた。
これが不安だというのなら、相変わらず楽しそうなグンマの笑顔に対する俺の気持ちは、一体どう説明すればいいのだろうか。

やっとのことでトットリがミヤギ達のいるテーブルへ戻る。
小さくため息をつく俺にあいつは肩を竦めて笑いかけ、コーヒーのお代わりはいるかと尋ねる。
俺は首を横に振る。

再び二人きりになってもあの鮮やかな満足感はやってこない。代わりに空洞からははっきりしない感情が俺を支配しようと動きだす。

こいつの笑顔を見ているというのに。
俺はどうしたんだ。

もしかしたら俺は今、幸福という枠組みから外れてしまったのかもしれない。

END
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