黄昏れ時に
□黄昏れ時に
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『奥村先生』が早くこないかと待ちわびていた奈美は、やってきた人物をみて驚愕し――同時に納得した。
「燐――」
「なっ…奈美!?なんでお前が」
此方に駆け寄ってきた燐に、奈美は一通りの説明できる範囲で話しをする事にした。
「実は私、気がついた時には悪魔が視えてたの…。それでお母さんが、叔父さまのところに連れて行ってくれてね。覚えてる?初めて会った日の事を。あの日から私は祓魔師を目指してる」
「そんな昔からかよ…」
「うん…なにはともあれこれからよろしくね!学校でも、此処でも!」
「ああ!」
ガチャ
「やっと先生来たみたい」
「席について下さい。授業を始めます」
「初めまして。対・悪魔薬学を教える奥村雪男です」
「雪男先生だ…!」
流石!と目を輝かせる奈美とは対照的に、何も知らなかった燐はすごく驚きましたとばかりに指をさして叫んだ。
「ゆきお!!?」
「はい、雪男です。どうかしましたか?」
「どどうしましたかじゃねーだろ!お前がどうしましたの?」
「僕はどうもしてませんよ。授業中なので静かにしてくださいね。藤本さん、奥村君が五月蠅くならないよう、注意しておいてください」
「はい先生」
「どどどいうことだよ!奈美」
「…今静かにっていったばっかりでしょ?この授業終わったら話してあげるから静かにしなさい」
「だけどよお…」
「――お察しの通り、僕は皆さんと同じ年の新任教師です。…ですが、祓魔師に関しては僕が二年先輩ですから、塾では便宜上『先生』と呼んで下さいね。まず、魔障にかかったことのない人は何人いますか?手をあげて下さい」
「ましょう?」
「…魔障っていうのは悪魔から受ける傷とかのこと。一度でも受けると悪魔が視えるようになるものなの。祓魔師になりたいものは必ず通る道だよ。だから何人かいるみたいだし、これから儀式するみたい。燐、雪先生の邪魔しちゃだめだからね?これからゴブリン?呼びよせるみたいだから」
「あいつは…いつから…」
「ん?雪男…先生の事?先生は憎たらしくも歴代最年少で祓魔師の資格を得た、対・悪魔薬学の――天才だよ」
奈美の、少し羨ましそうな声を聞きながら、燐は茫然とした――知らなかった…兄弟でありながら、その事実を全く知らなかったことを。
その事実で頭がいっぱいで、奈美の忠告を無視して燐は立ち上がるなり雪男の方へとずかずか進んで行った。
「全く馬鹿燐め…メフィストさんも燐の膝からどかずになんとかしてくださいよね」
「なにをいってるんですか!こんな面白そうな事、わたしが止めるをお思いで?」
「いえ全くですね」
目の前で広がる事態に、奈美は盛大にため息をついた。さっそくお披露目になるなんて…
「奈美!手伝ってくれ!」
予想通り聞こえた雪男の声に、奈美はスカートのなかに隠し持っていた銃を取り出し、女子に群がるゴブリンたちに狙いを定めた。
「数が多いな…皆、早く教室の外に避難して!」
その凛とした奈美の呼びかけに、他の生徒は我に返って教室の外へと避難した。