こどもべや文

□スランプ脱出大作戦
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「…スランプ?」


思わず聞き返すと、クロームは真剣な面持ちで小さく頷く。
隣に座っていた隼人は、不思議そうにクロームを見つめて、それからくいくいと僕の袖を引いた。


「すらんぷ、ってなに?」


汚れなき純粋な瞳が、僕の顔を写す。
聞かれたものの、どう説明していいものか、答えあぐねていると、


「骸様は、調子が悪いの」
「骸、病気なのか…?」

「ううん、お仕事が進まないの」


隼人は納得したのかしていないのか、少し首を傾げて。

…スランプ、だなんて。
あの男には酷く似合わない言葉だ。
いつもあの不快な笑い声を響かせながら、いかにも愉しそうに書いているのかと思っていたのに。
ちなみに、隼人に骸の書いたものを見せたことはない。
…見せられるわけ、ない。



「骸しゃんの原稿終わんねーから帰れねぇぴょん」
「……めんどい、けど、原稿貰わなきゃ」


この二人も、クロームも、骸の担当なんて大変だろうと思う。
僕なら絶対引き受けないけど。
城島犬はだるそうに体をソファーにもたれかけ、もう一人の方は静かに本を読んでいる。
…骸の書いた、本を。



「骸、おしごと大変なんだな…」


呟いて、寂しそうに視線を伏せる隼人。
その表情は本当に可愛らしいけれど、何で骸相手にそんな顔をしてるんだろう。
少し、…いや、かなり妬ける。
隼人はいつの間にこんなに骸に懐いてしまったのか。


「…隼人、協力してくれる?」
「協力?」

「骸様の、スランプ脱出の為に」


真剣な様子のクロームに気圧されたのか、隼人は小さく頷いて。

それを見て、クロームはほんの僅か嬉しそうに瞳を輝かせた。
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