別世界

□空模様
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戦場で、アンタに会った。
出会った時のアンタとまるっきりかわらねぇ。
けど、人の温もりを知ったはずのアンタが、どうしてまた戦なんてするんだよ。
俺の傍にいて、アンタが笑ってて、そんな平和な世にならなかったってのかい?



-空模様-



「間違ってる、こんなの…」

「………」

「小太郎、アンタ…なんでまたこんな事してんだよ」

「………」

焦りの色も曇りの色も何も見せないのが、アンタだって分かってんだ。



『もう、戦なんて止めちまえよ…』



あの時の俺の言葉に、アンタは頷いたじゃねぇか。
信じたかったんだ。アンタが、その手を血で染める必要がなくなるんだって事を。

「アンタのその手は、沢山の命を奪ってきた。何千、何万と。けどっ…もう、アンタが人を斬る所は見たくねぇ!!」

「………」

「俺を撫でてくれた時、あんなにも温かくて、優しい手だったじゃねぇか…っ!!」

「………!」

息を飲む音がした。ほんの微かな、音。
だが、俺は聞き逃したりしなかった。いや…できなかったんだ。

「なんでだよ……小太郎…」

「………」

沈黙が訪れる。
戦場の中で、俺とアンタの静かな時間。
それを断ち切るような法螺貝の音。
立ち去ろうとするその背に声を掛けた。

「戦も終わりだ。なぁ、アンタは本当にこれでよかったのか…?」

「………」

「寂しいね…。アンタがもう一度笑える世が来たと思ったのに……」

寂しくて悲しくて、それでも涙が出ることはなかった。
知っていたんだ、この苦しみは俺だけじゃなくて、アンタもだってこと。

「アンタは、俺と一緒にいて変わったんじゃなかったのか…?」

「………」

アンタは答えの代わりの反応すら躊躇い、示すことはなかった。
俺とアンタが出会って、一緒の時間を過ごして、幸せなひとかけらの時間だった。
夢のように、儚くて脆い幸せの時間。
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