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□sleeping beauty
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「…ルス、セブルス…」
優しく呼びかけるその声に、スネイプは夜色の睫毛を震わして目を覚ました。
目の前には大理石のように白い胸が、ゆっくりと規則正しく上下していた。
体を包み込む、彫像のように形の良い腕。
「大丈夫かい?汗が…」
血の気のないスネイプの顔は、霧の中を歩いてきたかのようにしっとりと汗で湿っていた。
だがそれは不快な湿り気ではなく、朝露に濡れた菫の清々しさがあった。
「うん…夢を、見て」
…夢の中の声はルシウスじゃなかった…
ふと視線を上げれば、薄青の瞳がまっすぐにスネイプの瞳を射止める。
滑らかなプラチナブロンドが、微かなランプの灯を受けて眩しい。
「怖い夢?可哀想に…こっちにおいで」
寝てる間に離れてしまった体をもう一度寄せ合うように、ルシウスが促すとスネイプは何の迷いもなくその身を委ねた。
「まだ夜明け前だから、もう一眠りしなさい。起こしてあげるから」
「はい…ルシウスは眠らないの?」
「セブルスが寝たら眠るよ」
「そう…」
おやすみ、とルシウスは柔らかい唇をスネイプの額に押し当てた。
どうして起きてたの?とは聞けないまま、スネイプは瞼を閉じた。
…きっと、夢を見てうなされていたんだ。だから心配して…
ちら、と薄目でルシウスを垣間見れば、彼はそ慈愛そのものといった表情で微笑んでいた。
こちらが恥ずかしくなるくらいだ。
「ほら、早く寝なさい」
「あ…」
まぶたにキスを落とされ、半ば強制的にを目を瞑ることになる。
耳朶や頬に温かいものが何度も掠めるこそばゆさに、スネイプは身を捩った。
この人の、すべてが好きだった。
端正な顔立ちから、その立ち振る舞い、彼の内面から滲み出す気品も、僕を気遣う優しさも、すべてが。
見た目や家柄だけでなく、ルシウスには実力があった。
成績はいつも上位で、OWLも、NEWTも、五本の指に入るほどのものだった。
ここまでの情報は入学してしばらくしてからわかったもので、スネイプがルシウスに惹かれた理由はこれらではなかった。
きらめくプラチナ・ブロンド、澄み切った薄青の瞳、自分とは相反するものに、惹かれたのだった。
一目惚れ、とでも言うのだろうか。
相反するものに惹かれるなんて、ありきたり過ぎる惚れ心だと自分でも呆れていたが、やはり、好きなものは好きなままだった。
暖かなルシウスの胸に抱かれ、スネイプは再び眠りに落ちた。
次に目を覚ましたときにはもうあの光の夢も、声もを覚えていなかった。
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