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□moon
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低い岩の天井に肩をぶつけながら、足は慣れた道を静かに進んでいく。
本当は力一杯走りたかったが、足音はたてられない。
この先にある脅威を知っていたのでそれはできなかった。

相手は狼だ。

月明かりが差さない距離まで進み、ジェームズはズボンのポケットに手を突っ込み杖を探した。
『無い…』
杖がない事実に気付いた途端に、どっと冷や汗をかいた。
いくら透明マントがあったとしても、人狼には臭いでわかってしまうだろう。
杖を忘れるなんて、何をこんなに焦っていたのだろう。なんでこんなに必死になってんだ僕は。


杖無しで明かりをともす術もなく、仕方がないので手探りで進んでいると何か柔らかいものに手が触れた。
「ぅわっ」
驚きの声を押し殺して、それを手繰り寄せると、生地の感じや大きさでローブとわかった。
『セブルスのか?…一応持っていくか』
どうして落ちていたんだろう。まさか、この場所ではち合わせてしまったんじゃ…
ふと脳裏に残酷な光景が浮かび、ジェームズは先を急いだ。


遠くに小さな杖明かりが見えた。
その光が照らす細い手や黒髪で、杖明かりの持ち主がセブルスだとはっきりとジェームズは確信した。
少々泥にまみれてはいるが、無事だった。少なくとも血まみれではない。
『よかった…!』
安堵も束の間、すぐにでも叫んで、呼び戻したいが、ここまで進むと屋敷にまで聞こえてしまう恐れがある。
やきもきするジェームズをよそに、スネイプは好奇心に駆られるままに進んでいく。
あの杖明かりが屋敷の中を照らす前に、彼を捕まえなければならない。
焦りと緊張で高鳴る鼓動を抑えながら、ジェームズは急いで追いかけた。
スネイプの杖明かりのお陰で先程より進むのが楽になった。
慣れぬトンネルに戸惑いながら進むスネイプより、通りなれたジェームズの方が足取りが軽いのは明らかで、ついに手が届くところにスネイプの足首が見えた。
透明マントを脱ぎ捨て、その足首をぎゅっとつかむ。
「わあっ」
裏返った声がトンネルに反響する。
スネイプは屈んで進んでいたのでバランスを崩して四つん這いになり、手をついた拍子に杖を転がしてしまった。
『明かりが!』
ジェームズは狭いトンネルで四つん這いになったスネイプの隣になんとか体を滑り込ませ、杖を拾った。
「ノックス、灯りよ消えろ」
杖明かりが消え、トンネル内は再び暗闇になった。
「おまえ…ポッターだな?」
何も見えないが、声の出どころから察すると、スネイプの顔がすぐ隣にあるのがわかった。
「しーっ、静かにセブルス…」
「どうして、なんでおまえがここに」
「後で話すよ、今は戻ろう」
「また僕の邪魔をするのか、貴様は」
「お願いだから、城に戻ろうセブル…」
その瞬間、世にも恐ろしい獣の慟哭が、二人の頭上から漏れ聞こえた。
長々と苦しそうな遠吠え、そのあとの、ばきり、と何かを噛み砕くような恐ろしい音。
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