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□moon
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「変身」がはじまった。

「知ってるぞ僕は、ルーピンは、人狼なんだろう?」
鼓膜から直に入り込む音の恐怖に怖じ気づいたのか、スネイプはぶつぶつと文節を区切って言った。
「わかってんなら、なんで来た?」
「それは貴様もだ」
じゃり、と土を踏む音が聞こえた。
「何する気だ」
「貴様らの秘密とやらを見るんだ」
暗闇の中スネイプが四つん這いの姿勢から立て膝になったのが気配でわかった。

ひっ、と小さく息を呑む声が聞こえる。

見られてしまった。
今はまだ変身途中だからルーピンに気が付かれてはいないが、長くはここにいられない。
直に狼の鼻が利いてくる。
ジェームズはスネイプの手首を引っ張り、再び四つん這いにさせた。
「帰るよ」
スネイプは驚きの余り声も出ないようだった。
彼の想像する人狼というのはどんなものだったのか。
どんなに探っても机上の知識ではあの遠吠えも牙の鋭さもわからない。
満月に目を醒ますその生物は、紛れもない脅威だった。
「ルーモス」
ごく小さな杖明かりをスネイプの杖でつけると、ジェームズは半ばひっぱるようにしてトンネルを進んだ。
不意に触れたスネイプの手は小刻みに震えていた。
それを和らげようとジェームズはその手包んだ。

段々と狼の苦痛の叫びが遠ざかり、遠くに月明かりが差すのも見えジェームズはほっとため息をついた。
「出口だ、セブルス」
先にトンネルから身を乗り出し、暴れ柳が止まっているのを確認してからスネイプの身を手を引いて外に出してやった。
暴れ柳の幹を背に、二人は城へ歩き始めた。
「…あれは、本当にルーピンなのか」
ようやく口をきけるようになったのか、彼が囁く。
「うん…でも、誰にも言わないでほしい」
「ダンブルドアは許可しているのか」
「…」
「驚きだな、全く…」
「びっくりしたのはこっちだよ!なにシリウスに騙されてこんなとこまで来てるんだ」
「騙されてはいない、ちゃんと暴れ柳は止まった」
「そうじゃなくて、あのまま行けば君は咬まれていたんだぞ、それどころかっ」
「…ブラックはそれが望みのようだな、死ねばいい、と」
見れば、泥だらけの顔を歪ませ必死に涙をこらえている。
ジェームズぐしゃぐしゃになった透明マントとスネイプのローブを握り締めた。
「だけど僕が来た」
「…なんでだ」
「シリウスが教えてくれた」
「ふん、あの悪党も踏ん切りがつかなかった…ああっ」
「セブルス!?」
横にいた人物がいきなり視界から消えたので、ジェームズとっさに借り物の杖を構えた。
痺れがとれはじめた暴れ柳が、きしきしと不気味な音を立て枝を揺らしている。
その一本が、スネイプの腕に絡みついたのだ。
「う、わ、あっ」
暴れ柳が本来の力を取り戻し、徐々にスネイプの体を持ち上げようと彼の体を引きずっている。
『時間切れか』
暴れ柳のコブの効き目は一時間ほどしか持たなかった。
スネイプに絡まる枝を呪文で裂こうとするが、標的である枝が動くので照準が定まらない。
絡みつかれたスネイプの傷付けてしまうかもしれない。

至近距離で攻めるしかない。

シーカーの名に恥じない素早さでスネイプに駆け寄り飛びかかるようにしてその身に馬乗りにまたがった。
「ん、重い…」
「我慢しろよ!」
ジェームズの重さに反応し、枝の引きが鈍くなった。
「セクタムセンプラ!」
その瞬間を逃さず、ジェームズは近距離でスネイプの腕に巻きつく枝に呪文をかけた。
するりと枝が外れた。すかさずその枝の残骸を呪文で暴れ柳のコブめがけて飛ばした。
枝の残骸は、鋭くなってきた暴れ柳の攻撃をかいくぐりながら飛んでいく。
『これで大丈夫…』
ジェームズが気を緩めたのを見破ったかのように、頭上でしゅっと枝のしなる音がした。
「危な…ポッター!」
「!」
ジェームズはとっさに眼下にあるスネイプの頭を胸に抱き込んで、歯を食いしばる。
背中に激痛が走ること予期した。
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