現パロ部屋
□ルームシェア2
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「ルシウス…」
「うん」
「今日はカレーがいいかな、あれ食べたい。グリーンカレー、辛いやつ」
「うん」
「それともボンゴレがいいかな、あさりもあるし、オリーブオイルもあるし…」
「うん」
午後の3時を少し過ぎる頃だった。
このマンションの持ち主であり、同じ大学の友人であり、現在進行形で一緒に住んでいる彼は、アーサーの方には一瞥もくれず活字を追っていた。
「はあ〜…」
同じソファに腰をかけているのに、今は2人の世界は平行線を辿るばかりで全く噛み合わなかった。
ルシウスがこんな本の虫だとは知らなかった。
ここにただで住まわしてもらってる以上、アーサーはできる限りのことをしようと(大体は家事全般だが)心に決めたからには、ルシウスの要望希望は100%受け入れるつもりだった。
お坊ちゃん育ちのルシウスのことだ、きっと食の好みにはうるさいだろうというアーサーの予測とは裏腹に、ルシウスは何も注文をつけたことがない。
ただ紅茶にはうるさかった。
アーサーがティーパックの紅茶を買って帰ったときの顔は今でも忘れられない。
「あー…ルシウス?」
アーサーは真剣そのものといった顔つきでページを捲るルシウスにおず
おずと声をかける。
そうこう思い出してるうちにもう30分が経とうとしている。
買い物と調理の時間を考えるとそろそろ家を出たい。
「グリーンカレーにするからね!」
ルシウスが聞いていようが聞いていまいがこの際諦めてしまおう。
タイのハーブを取り扱ってるデパートはちょっと遠いので早く家を出たかったアーサーはソファから立ち上がりエコバックに財布を入れた。
ちらりと後ろを振り返ると、姿勢を変えずにひたすら本を読む品のいい姿があった。
ここまで無視されるとさすがに悔しいので、軽く髪を引っ張ろうかと伸ばした手をアーサーはすぐに引っ込めた。
ルシウスはちょっとしたスキンシップを嫌がる。
以前もこんなことがあって、気づいてほしくて横から頬をつついたことがある。
そのときルシウスは顔を真っ赤にして寝室へ引っ込んでしまったのだった。
すぐに嫌味を吐くルシウスの中で最上級の拒絶の現れだったとアーサーは分析した。そして3日間落ち込んだ。
「じゃあ、行くから。鍵は閉めとくからね」
「待て」
自分には広すぎるダイニングを横切り玄関へのドアの取っ手に手をかけたときだった。
「な、なに?」
「章を読み終わった…だから私も
買い物に行く」
「え、なんで?」
普段は絶対に言わないルシウスの言葉にアーサーは混乱するばかりだった。
「グリーンカレーに必要なハーブを買いに行くのだろう?その店なら私が好きな紅茶も売っていると思って」
そろそろ家から持ってきた紅茶のストックがきれそうなんだ。
てきぱきを身支度を済ませながらルシウスが言う。
聞いてないと思っていたのに。
アーサーは嬉しいような悔しいような、なんとも複雑な感情になった。
「さ、行くぞ」
上手く状況が飲み込めないアーサーをよそに、ルシウスは靴を履き替え準備万端だ。
2人で買い物なんと初めてだね、とふざけて肩に手を回してみるとやっぱりルシウスは顔を赤くして足早に前を進んでいった。