originale

□河童と不死者
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『さぁさぁ皆さんお立会い、今宵も面白おかしい物語の時間が始まりだ・・・』





昔昔に時代は遡る



「河童沼」





河童が出るといわれる底なし沼



沼は地獄に繋がっていて、堕ちてしまえば戻れない



河童は沼の番人



沼を荒らす者が在れば地獄へと、引き吊りこむ



沼を荒らせば、不幸を呼び起こす



それが河童の「お仕事」だから



沼のふもとには小さな、だけど村人達の絆が大層大きい村がありました



しかし、何かを拍子にその村は、大変なことになってしまったのです



作物は枯れ果て



水も枯れ



村人も次々と死んでいってしまいます



あんなにも絆が大きく、深かった村も今は・・・



自分だけでも生き残ろう。と欲に満ちた人で溢れかえっています



だから、まだ無事な食物を奪ったり



まだ右も左もわからない小さい子供を殺したり



なぜこうなったのか原因は、解りません



そんな中、一人の若者がポツリと呟いたのです



「誰かが・・・誰かがあの沼を犯したりして・・・」



その言葉を、村の村長さんは聞きました



そして、ただの「独り言」を本当と信じてしまったのです





「あの沼を誰かが犯した!!!誰だ!誰だ!!犯した者は一体誰なんだ!!」



「ソイツのせいでこの村は大惨事だっ!!!」



「どうしたらこの状況を終わらせられる?」



村の大人は、村長の家に集まり会議を始めます



数分・・・数時間



時間だけが流れるだけで、何の結果にも辿り着かない



と、そこに・・・村長さんの親友である一人の老人が言いました



「昔のことじゃが・・・聞いたことあるぞ・・・昔、一度だけこういう状態が村を襲ったそうじゃ・・・」



老人の話に、皆耳を傾けます



「村の皆はワシ等と同じ、誰かが沼を犯したと言って、ひとつの試みをした」



皆が唾をごくりと飲む



その「試み」が



我等の「解決策」になると思って



「その試みとは・・・生贄・・・じゃよ」



「そっ・・・それで・・・結果は?」



まだ少し若い青年が、老人に結果を問う



「成功・・・したようじゃ、生贄を沼に奉げ・・・謝罪をしたら何事もなかったように・・・元に戻ったのじゃ」



老人が話を終える



周りは静かなままだ



これが、この状況を救えるかもしれない「解決策」



しかし人柱を誰にしようか



それが会議の新しい議題となり、夜は明けた



山に日がゆっくりと昇ってくる



だけども会議は終わらない



皆が皆、「自分は生きたい」・「まだやりたいことがある」などと口々に言い訳をして



誰も生贄になろうとしないからだ



(自分の命、そう簡単になくしてたまるか)



誰もがそう思います



しかし誰かが生贄にならなければ、村自体が枯れ果ててしまう



誰か・・・なってくれ



そう願い続ける大人たち



嗚呼、なんて醜いのでしょう



夜が明け、昼が来ました



そこでやっと・・・やっと「生贄」が決まったのです



生贄に決まったのは、この村に住む1人の「少年」



彼はこの村に生まれて4年



将来もあるであろう、そんな少年



少年は大人たちが大切な会議をしていることを知っていた



その内容とまでは行かないが、会議のことを知っていた



そして朝、起きて大人たちがいないことに気づく



(そうか、まだ続いているのか)



そう思い、おけに溜まっているわずかな水で軽く顔を洗う



ここしばらくまともに食事をとっていない



腹の虫が「ぐーぐー」と空腹を訴える


「おなか・・・減ったなぁ・・・」


そう呟いても食料はもうそこをついた


はぁ、とため息をつけば向こうのほうから一人の老人が少年を呼ぶ


少年は自分がなにかしただろうかと思いながら老人のもとへ走っていった


「なにか御用ですか?」

「・・・理由は後で話すからわしの後についてきてくれないか?」


「・・・・?はい、いいですよ?ついていきます・・」



そして少年は、老人の後へとついていき


河童沼についたのだった



「ここは確か・・・河童沼、ですよね?」


「そうじゃよ・・・」


「このような沼になぜ僕が?」


「・・・・」


老人達は言葉を失った

しかしそれは

逆に少年にこれから自分の身に降りかかることを気づかせてしまったのです


しかし少年は一歩たりとも逃げようとはしなかった



ただただにっこり笑って

「僕一人の生贄で村が平和になるのなら僕は喜んでこの身をささげます」


そういった

老人達は少しばかり涙をながし

少年に礼を言った

そして、生贄として


生きたまま、沼の中へ・・・

ブクブクと沈んでいく少年の体

謝罪を口にする老人達

少年の体が、全て見えなくなって、

老人達が謝罪の言葉を告げ終わり

生贄の儀式は終わった・・・・


それから数日

村には数日前のことが嘘のように平和になった


これはあの少年のおかげと村人は喜んだ

しかし


そんな喜びも束の間

平和な日々をすごしてた村人達に

とても強力な毒ガスを撒かれ

一人残らず死亡

村も崩れ、今では場所さえ解ってはいない・・・・・・



そして

なぜ村が荒れたのか

なぜ生贄を捧げれば怒りが収まるのか

何者が毒ガスを撒いたのか


全てが不明・・・

すべてが未解決・・・・


『・・・・これで物語はお終い・・・どうだった?』





「悲しいよぉー」



「かわいそうだよぉー」





『うん、そうだね・・・かわいそうだね』





「・・・?あれぇー?」



「どぉしたの?」



「なんでおにーさんが泣いてるのぉー?」



『ん?え?・・・あぁ・・・なんでもないよ。じゃぁ僕は帰るとするから、君達がいい子にしてればまた会えるからね』



「うんー!!」



「いい子にしてるぅー!」



「だからまた来てね!」



「お話聞かせてね!」





『うん・・・約束するよ』



「ゆーびきーりげんまーん、うーそつーいたーらはーりせんぼんのーます♪」



「ゆびきった!!」



「約束だよ!」



「おにーさん、泣いたらメだからね?」



「泣いちゃダメだよー?」



『うん・・・そうだね。じゃぁ・・・また・・・』





「うんーー!!!」





『(いまだに頭に繊細に残る記憶・・・それを物語にして、僕はなにがしたいんだろう・・・)』





それは、不死身の人が思うこと



死ねない人の、嘆きごと



不死者なんて、なんの得もない。と改めて思うこと


破滅した村をちょうど出かけて助かった人間の独り言





そんな少年の・・・「物語」

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