頭文字Dであかさたな*

□引き止めたいたちつてと
1ページ/1ページ




もう、限界だ。
拓海と喧嘩した。
見たくなかった、あんな光景。
胸が張り裂けそうだ。


むから聞けよ、俺の話!」


嫌だ、嫌だよ、聞きたくない。
他の女の子の話なんて聞きたくない。

拓海の彼女は私なんじゃなかったの?
拓海の隣は私の、私だけのものだと思っていたのに。

「おい、ょっと待てって!」


彼が大切にしていたパンダトレノ。
その助手席に私以外の女性の姿を見るまでは。


もう、もうやめて。
いいよ、嘘なんてつかないでよ…。


くかよ!お前に嘘なんて!!」


グイ、と腕を掴まれ引き寄せられる。
こんなに苦しいのに、ああ、拓海の手の温度…温かいな、なんて頭の隅で考えてる。

ボタボタと無様に涙を溢すわたしに、


、出せよ」


え…?
なんで…なんてボケっとしてたら、拓海が焦れたのか無理矢理左手が攫われてしまった。

ほら、とぶっきらぼうにジーンズのポケットから出てきたものに思わず涙も引っ込む。

彼は少しも迷うこと無く、薬指にソレを嵌めた。


「女モンなんてわかんねぇし、名前の知り合いに手伝ってもらったんだよ」

な、に…それ…。
そんなの聞いてない。

喜ばせたかったんだから言えるわけないだろ…そう言った彼の耳が赤く染まっていて。


わたし、ばかだ。

そうだな。

ごめん。

いいよ、別に。


口数が多くない二人だけど。
それだけで分かりあえる。


「けどさすがに別れるって言われるとは思わなかった」

すこし切なそうに呟く。


握った左手はそのままに、さっきよりも強い力で引き寄せられる。
そのままギュ、とたくましい腕に捕らわれた。


「…こにもいくなよ」

耳元で聞こえた彼の声に、また少し泣いた。






【引き止めたいたちつてと】


(お前のたった一言でこんなに動揺する)
(絶対、離すもんかよ)



次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ