頭文字Dであかさたな*

□奪い去りたいなにぬねの
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女の勘はよく当たる。
どうやらそれは本当だったみたいだ。

夜に溶けそうな漆黒の中から、煌びやかな外の世界を眺める。


「…くな」

指摘されて初めて自分が涙を流していることに気づく。
泣くつもりは無かった。
ではなぜ泣いているのか?と聞かれたら、きっとそれは自分の惨めさに泣いたのだと思う。

綺麗な女性の肩を抱きながらネオン街に消えていく男は、間違いなく私の恋人だ。


いか」


ううん、全然。
これは強がりなんかではなくて本心だ。
強いて言うならくやしい、自分自身が。

そういうと、そうか…とだけ呟き、煙草を咥えた京一。

いつかこうなるんじゃ…とは思っていた。
悪い人じゃなかったんだけどね。
何でこうなっちゃったかな…。


「おい、」

窓から視線を外し、彼を見る。
身を乗り出して、思いのほか至近距離に居る彼に少し驚く。

るくなった情なんか捨てろ」


そう言い放つと、少しカサついた唇が私のそれを覆う。
さっきまで咥えていたタバコの味だろうか、ほろ苦くて…けどどこか優しくて切ない。

ゆっくりと離れていく京一の瞳に私が映っている。

おもむろに伸びてきた彼の大きくて温かい手が私の頬を撫でる。
それがとてつもなく甘く優しい。けどどこか切ない。
思わずすり寄ってしまう、私は最低な女だ。

そんな私を見つめ、ふっと笑う京一。


コみてぇだな、お前は」


そう言って再び口づけられる。

ああ、心地よい。
甘えてしまう、やめて、やめて。
わずかに残された理性か罪悪感か、心の底で抵抗しているよく分からない感情。

「名前」


京一はそんな私の惑いを見抜いているのか、


「…お前にされた選択など、一つしかねぇだろう」

なんて、まるで悪魔の様に囁くから。
抗っていた感情は見る見る間に身を潜める。

ああ、堕ちていく…この漆黒に…。





【奪い去りたいなにぬねの】


(欲しいものは必ず手に入れる)
(言っただろう、狙った獲物は逃がさんと)



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