わたくし、東堂商会事務員でございます。*
□酒井さんに送ってもらう
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デスクのデジタル時計が21:00を表示している。
一息つこうと伸びをしかけたその時、裏の出入り口が開いたことに体がピクリと反応してしまった。
「あれ、名前ちゃんまだ居たの?」
「酒井さん、お疲れ様です。請求書のチェックがなかなか終わらなくて…ははは…」
現れたのはオレンジ色のツナギ姿の酒井さんだった。
残業だろうか、少し疲労気味の表情を浮かべている。
「そっか、もう月末だもんな」
「早いですよねー」
「社長は?」
「浅田モーターズの専務とお食事だそうで帰られましたよ」
「ああ、お昼にそんな事言ってたな…」
話しながら冷たい麦茶を注いで酒井さんに差し出す。
「ああ、ごめんね忙しいのに…」
「いえいえ、これくらいは」
「そう…まだかかりそう?」
「うーん……」
今日中に終わらせなければいけない、という訳でもないのだが
いかんせん私の性格上後々仕事をため込むのが嫌なもので…。
正直終わらせようかな、とは思っていたのだけど…。
「……名前ちゃんの事だから、それ別に今日中じゃなくても大丈夫なやつでしょ」
向かいのデスクからチェアを引っ張ってきた酒井さんは隣に腰をかけた。
するとおもむろにマウスを操作し始めると、
「さ、今日はもう終わり」
「ああっ…」
そう言ってわたしのパソコンをシャットダウンしてしまった。
「ほら、帰ろ帰ろ」
「……はーい」
私は渋々周りを片づけを始める。
ファイルを棚に戻して、戸締りをして外に出た。
「それじゃ、酒井さんお疲れ様でした」
「うん、お疲れ様…って、え、どこいくの!」
「へ?どこって…家ですけど…」
「違くて!送るよ!」
「ええ!?い、いいですよ!悪いです!」
予想もしていなかった酒井さんからの申し出に慌てて遠慮の意を示す。
だって、こんな遅くまで残業していて疲れてるのに…さすがに申し訳なさすぎる。
「酒井さんだって遅くまで残業されてるんですから、ほんと、私なら大丈夫ですんで」
「いやいや、こんな真っ暗なのに女の子一人で帰せないよ」
「い、いや、でもほんとに悪「おいで」……ええっ!?」
このままだと埒が明かないと思ったのか、酒井さんに手首を掴まれ駐車場へ連行されてしまった。
…酒井さんの手、大きいな。逃げられそうもない。逃げる気はないけども。
「はい、乗って」
「うう、すいません…お邪魔します…」
真っ白なDC2のナビへと誘導される。
運転席に乗り込んだ酒井さんにペコペコと頭を下げながらしつこいくらいにお礼を言っておいた。