わたくし、東堂商会事務員でございます。*

□大輝君に助けてもらう
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今日も今日とて日差しがきつく、暑い。
アスファルトからの照り返しがひどく、ジリジリと汗が噴き出る。

「それじゃ、また何かあったら電話ください」

「ありがとうね二宮君。社長にもよろしく」

「はい、ありがとうございました」


客の車がトラブったとかで急遽俺が指名された。
途中酒井さんに電話しながらだったけど、何とか回復したみたいだ。

用件をすませた俺は外の熱気から逃げるよう、そそくさとバンに乗り込む。
日陰に停めさせてもらえてよかった。
こんな暑さじゃステア握っただけで火傷しちまうな…。
急いで冷房をかけ、客先を後にした。


しばらく走り、職場が見える交差点の信号で停まる。
ちぇ、あと少しで着いたのに。
なんでこんな微妙な位置に信号なんかあるんだよ…。
などとどうでもいいようなことを考えていると、駐車場に名前さんの姿が。

「(客の見送りかな…)」

事務員である名前さんは基本事務所内から出ることがほとんど無い。
一日の大半を自分のデスクか、客の応対で使う応接場所で過ごしているはずだ。
珍しい光景に目を凝らすと、何やら名前さんの傍らに『虫』が一匹。


「ンだあの野郎、また来てやがんのかよ…」

チッ、と行儀悪く舌打ちを打つと、あと少しの距離とは思えないスピードで帰社する。
バンをガレージ横に乱暴に停め、名前さんの元へ向かった。



「いや、あの、ですからそう言った個人的なことをおっしゃられてもですね…」

困ったように苦笑いを浮かべる彼女とは正反対に、すがすがしい程の笑顔を浮かべるその『虫』。

「いいじゃないですか、こうでもしないとお誘いも出来ないんですから」

「あの…仕事中ですので、本当に困ります…」


そう、『虫』とは名前さん目当てに用事もないのにわざわざ挨拶に来る営業。
うちの会社に、主に整備で使用する消耗品を卸している業者だったはず。
あいつは社内でも有名で、何かと名前さんに声をかけては長居し、仕事の邪魔になっているらしい。
社長も把握済みで、「今度うちの事務員にちょっかいかけたら担当を外す」と些かご立腹気味であった。


「どうしてもダメですか?ご飯だけでいいんです!」

「…何度も言いますがお断りさせて頂きます。すみませんがもう戻らないと…」


いつも優しい名前さんも、さすがにこいつは苦手な部類の人間のようだ。


「(ったく、何がメシだけでもだっつーの)」

お前みたいなしつこい奴が一回の食事で済むわけねぇだろ。

……しょうがねぇ。




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