十六夜(クロスオーバー小説)

□影の月 -SHADOW MOON-
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プロローグ/
《ゴルゴム、最期の日》
-The Last Day Of GOLGOM-


―――ゴルゴム神殿。
今ここで、5万年に渡り繰り返されて来た戦いに終止符が打たれようとしていた。
不気味な岩が蜘蛛の巣のように張り巡らされた神殿に、黒きボディを持つ仮面の戦士が現れる。戦士の名はブラックサン。
太古より文明の破壊を生業としたゴルゴムの次期創世王候補として生まれながら、人類をゴルゴムの脅威から守り抜く為に戦った、黒き正義の化身である。
彼の手には、一振りの宝剣が携えられていた。赤い刀身に金の柄を持つその剣の名はサタンサーベル。次期創世王候補である世紀王のみが使用を赦されるゴルゴムの秘宝である。皮肉にもそれは、一度は自分の身体を貫いた武器。そしてその刃を振るったのは、他でもない彼の親友だった。

「………………信彦(のぶひこ)」

かつての親友の名を零すブラックサン。
親友はゴルゴムの下僕となり、幾度となく自分と戦いを繰り返した。そして一度は自分の命を奪い、先刻、死闘の末に打ち破った。しかしそれでも、彼の心から親友を思う気持ちがなくなる事はなかった。
姿形は変わり果ててしまったとは言え。
自分を敵として憎んでいるとは言え。
それがゴルゴムに操られた所為とは言え。
それは紛れもなく、親友だからだ。

仮面の下に物憂げな表情を浮かべながら、ブラックサンは神殿を歩む。そして、かつて件の親友が座っていた玉座と思しき物へと辿り着いた。
――――その時。

「………ブラックサン…」

「ッ!?」

カシャ、と言う機械的な足音。そして響いたその声に振り向くブラックサン。
そこには、変わり果てたかつての親友…シャドームーンが立ち込める蒸気と共に立っていた。

「信彦…!」

シャドームーンはゆっくりと、お互いが真正面に見える位置まで歩みを進める。

「ブラックサン……!」

絞り出すような声。
白銀の鎧に所々入った亀裂、蒸気を吹き上げる節々…世紀王としての誇りを賭した戦いに敗北しても尚、彼の深緑の瞳に宿る闘志は衰えていなかった。

「最後の勝負だ……今度こそ貴様を地獄へ葬(おく)ってやる! ぐッ、う…!」

一歩を踏み出すはずの足は、崩折れて地に臥(ふ)した。ガクガクと震える足。その足を叱咤激励するも、身体は答えてはくれない。

「信彦、もう勝負は付いたんだ。人間の心を…あの頃の心を取り戻してくれ」

「……黙れッ!!」

一瞬の逡巡の後、彼は吠えた。
鋭い声には、ありったけの憎しみが込められているようで、それでいて苦しみが混じったような悲痛な叫び。

「俺は貴様が憎い……必ず、貴様を斃してみせるッ!!」

足に力を込め、今度こそ立ち上がる。
黒い戦士に向けた掌を握り締め、白銀の戦士は有らん限りの怒りをぶつけた。

「………怒(ぬん)ッ!」

気合いと共に、構えを取る。両腕を斜め前方に広げた、野獣のような猛々しき構え。同時に、シャドームーンのベルトのバックルが緑色の閃光を放つ。
急速に高められていくエネルギー。キングストーンに残された全ての力が、両足へと集められる。

「よせ! その身体でシャドーキックを使うのは無理だ。自滅するぞ!」

ブラックサンは制止の声をかけるが、シャドームーンは動じない。それ所か、キングストーンのエネルギーは更に高まり、彼からなけなしの体力を奪い去っていく。
そして、両足に設えられたヒールトリガーが静かに跳ね上がった。
――――それが、合図。

「おォォオオオォオオォォォッ!!」

「やめろ! 信彦ッ!」

天に轟かんとする咆哮。同時に宙を舞う、白銀の身体―――。

「シャドーキィィィィック!!!!」

放たれる必殺の一撃。生命力すら削り取った渾身の技。緑色に輝く両足が、ただ真っ直ぐにブラックサンを捉え、迫る。しかし彼とて、此処で負ける訳にはいかない。
創世王を倒さねば。
シャドームーンを倒さねば。
この地球に、未来はないのだ。

「―――――ッ!!」

胸に残る僅かな躊躇いを振り切り、ブラックサンは飛び上がった。

「信彦ぉぉぉッ!!」

交差する白銀と漆黒。
重なり合う緑と赤。
その一瞬の内に、サタンサーベルの紅刃がシャドームーンのバックルを斬り付けた。シャドーキックは虚しく空を掠め、斬り付けられたバックルから火花が飛び散る。
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