十六夜(クロスオーバー小説)

□第1話・前編
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第1話前編/
《月、降臨》
-The Advent the Moon-



時を越えろ
空を駆けろ
―――この星の為


◆◆◆


…世界が霞(かす)んでいる。
視界は歪み、朦朧(もうろう)とした意識の中、俺はゴルゴムの最期を悟っていた。
俺の名は、シャドームーン。ゴルゴムの支配者たる創世王(そうせいおう)、その後継者として生まれた世紀王(せいきおう)だ。
しかし、最早その役目も終わる事になる。直に、もう1人の世紀王…ブラックサンが創世王を討ち滅ぼすだろうからだ。
死期が、迫っているからなのか。
今の俺には、死を前にしてその光景を朧気(おぼろげ)ながら感じ取る事が出来た。


『ブラックサン…時間がない、どうしても我が創世王の座を継ぐ事を拒むか…?』

「当たり前だ! お前達の思惑通りには、決していかせはしないッ!」

あくまでブラックサンに王座即位を強要する創世王。そして、あくまでそれを拒絶するブラックサン。
創世王…最早イタチごっこだと言う事に何故気付かない? 奴が我らゴルゴムと裾を分けた時点で、ブラックサンの創世王王座即位の可能性は失われたのだ。

『良いのかブラックサン…私がこの穴に飛び込めば、地球は1分と経たずに木っ端微塵となるのだぞ…それでもかッ!?』

「くッ………!」

徐々に穴の入り口へ近付く創世王。
それは、地球破滅への秒読み。
…ブラックサン、どうする? そこで諦める程、貴様の正義とは脆い物なのか?

「――――…そうだ…俺も、世紀王の座に就いているのならッ」

そうだ。
貴様は黒き太陽(ブラックサン)…つまり、次期創世王候補。創世王の力に抗えるのは同じ創世王となるべき存在だけだ。

「サタン、サーベルッ!!」

ブラックサンが叫ぶ。その時、俺の手の中のサタンサーベルが淡く輝いた。ブラックサンの…そう、世紀王の呼び掛けに答えるように。同時に、俺の身体から力が抜けていく。サタンサーベルが失われる事で、僅かに備えられていたキングストーンの力が削がれていく。

「ブラックサン…」

俺は、もうその名を呟く事しか出来なかった。
サタンサーベルの刀身が一際明るく輝き、俺の手から離れていく。

「――――……南、光太郎…!」

その言葉を最後に俺の意識は霧散した。
寸前に響いたのは―――創世王の呪いとも言える最後の言葉。

『おのれ…おのれブラックサン……! だがこれで私を…ッ…このゴルゴムを倒したと思うな……! まだ、まだだ、まだ■■が残っておるッ……! 覚悟しておくが良いブラックサン……必ずや貴様を…貴様を…おォあアァアあァぁぁアアぁッ!!!!!!』


◆◆◆


ミッドチルダ、時空管理局本局。
机に座り、書類の整理…所謂(いわゆる)デスクワークに精を出している女性がいる。その隣(正確には右肩の辺り)には、妖精と見紛う程に小柄な少女(?)がフヨフヨと舞うように浮いていた。
デスクワークに精を出している濃いめの茶髪に×の形を模した髪留めを設え、髪と同じく濃茶のスーツを来た女性の名は、八神(やがみ)はやて。若干9歳にて管理局入りし、その希少なスキルと類い希な潜在能力で数々の事件を解決に導いた管理局きっての実力派であり、現代では数少ない古代ベルカ式の魔法を操る『魔導騎士』である。
そのはやての肩に浮かぶ妖精少女の名は、リインフォースU(ツヴァイ)。はやてが生み出した人格型ユニゾンデバイス(解り易く言えば、人間と変わらぬ感情や生活形態を持つ魔法端末。もっと解り易く言えば人間型の魔法デバイス)である。
はやては黙々と書類に何やら書き込み、リインフォースUはそんなはやてに目もくれず、右肩に座ってビスケットと思しき焼き菓子を噛っていた。
…先日発生した未曽有のテロ、ジェイル・スカリエッティ事件…通称JS事件は、はやてが立ち上げた新部隊『機動六課』のメンバー達の活躍によりひとまず収束した。
だが、それが終事(ついごと)を迎えたからと言って、彼女の仕事は終わる事はない。今でもこうして、事件の事後処理と課長としての責務に追われる日々が続いている。
加えて今、彼女を再び戦士として戦場へ向かわせんとする事件が相次いでおり、その事件についても彼女は纏めなければならなかった。

「ッはぁ〜〜〜……やっぱ、座ってばっかやとさすがに疲れるなぁ」

一旦ペンから手を離し、軽く伸びをする。目の前には書けども書けども減る様子も見せない書類が、高層ビルのような様相を呈していた。堆(うずたか)く積まれた書類ははやてを嘲笑うかのように聳(そび)え立っている。少しでもつつけば、バラバラと紙吹雪のように崩れ去ってしまいそうだ。

「………何で、こんなにあんのやろ…」

「しょうがないですよ、事後処理も立派なリーダーの務めだとリインは思うのです」

はぁ、と溜息と共に呟くはやて。リインもリインで「手伝うのです!」くらいは言ってくれてもいいのに…と言うのは胸の奥にしまっておく。
…休んでいる暇はない。午後からも、別の仕事が首を長くして待っているのだ。

(…さっさと終わらせななぁ…)

椅子を引き、再び書類と向き合う。
だが、そう決意した瞬間に、近頃ただでさえ窄(すぼ)み気味のはやての胃を更に痛める報告がされた。

「はやてちゃん、緊急事態よ!」

「はわぁッ!?」
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