十六夜(クロスオーバー小説)

□第1話・後編
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影の月 -SHADOW MOON-

第1話・後編/
《始闘》
-The First Buttle-



カシン、カシン、と機械質な足音を立てながら、白銀の戦士―――シャドームーンは尚も歩みを続ける。一歩一歩、無機質な床の感触を確かめるよう、酷く緩やかに。
まるで、王が民衆に言を伝えるべく王座から降りるようだ――――。彼の醸(かも)し出す雰囲気も相俟(あいま)ってか、スバルにはそう思えた。

「ギ、ア……アァ…シャ、」

「シ…シャ、ドームーン……様ァ…!」

彼の姿を見た瞬間、クモ怪人達の間に明らかな動揺が走る。怯え、そして戦慄…一貫して『畏怖(いふ)』と呼べる感情が、彼らを支配しているようだった。
シャドームーンは彼らのそれを全く意に介さず、寧(むし)ろ更に恐怖を煽り立てるかのように覇気を放ちながら尚も歩む。
カシン、カシン、と―――涼やかで残酷な足音を静寂の中で響かせながら。

(何だろう、アイツは………敵じゃない、のかな…? でも………)

緩やかに近付いて来るシャドームーンを見ながらスバルは思考を巡らせる。

先程、あの鎧の戦士―――シャドームーンは『様』と呼ばれていた。ともなれば、彼は奴らの助っ人として現れたと言う可能性も考えられる。
このまま動けない自分を、あの無骨な指で引き裂き、鋭利なトリガーで切り裂こうとしているなら―――何としてもこの戒めから脱さねばならない。
しかしこの糸は自分の力では解けない事は既に解り切っている。ギア・エクセリオンを使っても、逃げきれるかどうか。

「…ッ…ッ! うぅッ! こ、このッ! 解(ほど)けッ、解けェッ!!」

力ずくでも解こうと足掻くが、結果は同じだった。ただ粘着く蜘蛛の糸が、抵抗するスバルを更に締め上げるだけ。そうしている間にも、シャドームーンは確実にスバルに歩みを進めている。
また一歩、無機質な大地を踏み締めて。
そして、目の前に彼の無機質な足が映る。

(………くッ……! 母さん、ギン姉……ティア………なのはさん……みんな………ごめんなさい…!)

思い浮かぶ人達に謝罪を告げ、スバルは瞳を閉じた。直後に襲い来るであろう激痛に耐える覚悟を決めながら。
―――――しかし。

「…………………………………」

「――――――……え…?」

機械質な足音は、そのままスバルを通り過ぎた。まるで、スバルなど初めから眼中にないとでも言うように。
そして、銀の戦士はスバルの頭部より少し前で止まった。
王としての威厳を、身体から沸々と滲ませながら。

「貴様ら……何故、生きている?」

低く、重みのある声で、シャドームーンはクモ怪人らに問うた。聞く者を総毛立たせる、しかし峻厳たる低い声。
正に王と呼ぶに相応しい、冷たく鋭い声。

「貴様らは…ゴルゴムは滅んだはずだ」

声に僅かな翳(かげ)りが混じる。
しかしそれも一瞬だった。
シャドームーンは一歩を踏み出し、クモ怪人らを威嚇するように間を詰めていく。
クモ怪人はその威圧に耐えられず、彼が歩を進める度に後ろへ下がる。

「知っているのならば…答えて貰おうか。何故、ゴルゴムが未だ生きているのかを」

拒否を許さぬ振動が、張り詰めた空気を更に鋭くする。ゆっくりと右腕を上げ、クモ怪人らを指差すシャドームーン。
細かく身震いしているクモ怪人達。その中の1匹が躊躇う様子を見せながらも何かを言葉にしようとした――その時。

「ギッ…!? ギィアアァアァァアッ!!」

「ッ!?」

バリバリと紫色の電撃が彼らの身体を駆け巡る。大量の紫電が走る中、もがき苦しむクモ怪人達。その異変にシャドームーンもスバルも驚きを隠せない。
そして一頻り紫電が走った後、クモ怪人達はガクリと膝を付いた。
そのままピクリとも動かない。そのうちに平静を取り戻したシャドームーンは、もう1歩クモ怪人へ歩み寄った。
が、その瞬間―――――

「ギッ……ヒヒヒヒヒヒヒヒィッ…!」

先頭のクモ怪人が不気味な嗤い声を上げ、唐突に鉤爪を振るった。横薙ぎに振るわれる爪。しかしそれは回避行動に入っていたシャドームーンを掠める事もなく空振りに終わる。
後方に跳躍して爪を避けたシャドームーンは、深緑の瞳に困惑と怒りを湛えながら、爪を振り切ったまま顔を上げないクモ怪人を睨め付けた。

「貴様…この俺が世紀王シャドームーンと知っての愚行か?」

問いかけるが答えはない。そこでようやくクモ怪人が面を上げる。…しかしそれは、彼がよく知るクモ怪人ではなかった。
否、姿形だけなら、それはクモ怪人と変わらない。しかし、決定的に違うのは眼だ。
片方3つずつ、合計6つの眼は、彼の知るクモ怪人の紅ではなく、禍々しい紫色に染まっていた。見れば、他のクモ怪人らも同じような変化を遂げている。身体には尚も紫電が走り、心なしか筋肉質になっているようにも見えた。

「ギィヒヒヒ……モ、ハヤ…世紀王、ナド……不要……アノ、オ方…サエ…」

「……何…?」
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