『貴方だけの華』

□もう1人の花嫁
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ー10月20日(月)ー

「じゃあ、お母さん!学校行って来るね!」

「行ってらっしゃい!気を付けてね」

元気良く家を飛び出した彼女、名前は橘優華(たちばなゆうか)、高校1年生。
彼女が元気良く家を飛び出した理由、それは―――今日は10月20日、彼女の16歳の誕生日だった。

誕生日なのもあってか半分以上浮かれていた。その証拠にスキップ、おまけに鼻歌混じりだった。


「あ、あのぉ…」

あまりに有頂天になりすぎて背後の気配に気付かず、跳び上がりそうなくらい驚いた。
その彼女の背後には、長身に丸眼鏡、そして優華とは違う学校の校章が入った制服を着た青年がいた。表情は見るからに申し訳なさそうである。


「えぇ〜と…楽しそうなところ邪魔して悪いんやけど、俺と一緒に…「もしかして、鬼の使い?」…へ?」

前に迎えに行った花嫁、朝霧神無は鬼の事に関して何も知らなかったので、彼にとっては新鮮な光景だったに違いない。寧ろ、庇護翼が花嫁の存在を知らなかったどころか、当の華鬼本人にまで忘れられていたのだから、逆に鬼の事は殆ど知らないだろう、と勝手に解釈してしまっていた。


「あ。“何で知ってんの?”って顔してる〜」

“超”が付くほど笑顔になっている彼女の目の前で青年は困惑していた。予想していなかったことが立て続けに起こったからだろう。


「親がね、言ってたの。16歳の誕生日に鬼が迎えに来るーって。でも、その鬼は私を幸せにしてくれるから行っても良いって。…で、合ってる?」

「え…ああ…合っとるわ…」

前に迎えに行った花嫁と反応どころか性格まで違うようで彼は呆気に取られていたと同時に、どこか寂しげに言う彼女に少し不審を抱いていた。


「えーと…何すればええんや?…とりあえず…君、橘優華ちゃんで合っとる?」

「うん、合ってる。…ねぇ、あなたは?」

「あ…俺は士都麻光晴。よろしくな」

「こちらこそ、よろしくっ!…で、これからどうするの?」

「いくら言われとるからって勝手に連れて行くわけにはいかん。悪いけど、一旦家に帰ろか」

「私の?」

「そうや。」

そう言って光晴は先に優華の家に向けて歩き始めた。優華はその行動に不思議に思いながらも、彼の後をついて行ってみると、いつの間にか彼女の家の前まで来ていた。
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