その他
□出逢い
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「ザーックス!」
「やっべ…」
遠くからザックスを呼ぶ声が聞こえた。何やら必死な声だ。
「悪い!お前さん、俺と会った事は忘れてくれ。俺の所在を訊かれても、知らぬ存ぜぬを貫くんだ。良いなっ」
「ああ、でも…」
青年が言い終わらない内に、ザックスは後ろから制服を掴まれた。一瞬の内に全てを理解し、うなだれる。
もう一人いたのだ、追っ手が。
「……気配を消すのが上手くなったな、先生」
「お陰様でな。さあ来い、ザックス。ん?」
ザックスの首根っこを掴みながら、教師は傍観している青年に気が付いた。
「クラウド・ストライフ、確かお前も指導だったな?」
青年は、少しだけ驚いた声を出す。
「今日だったんですか、遅刻指導?」
「とぼけたって罪は軽くならんぞ。お前らまとめて特別指導だ」
嬉しそうにそう言って、教師はザックスと同じように青年の制服を掴んだ。半ば強制的に彼を連行する。もっとも、抵抗する様子も見られなかったが。
教師に促されて、二人は歩き出した。
「クラウド・ストライフっていうのな、お前。かっこいい名前じゃん」
道中、ザックスはクラウドに話し掛けてみた。
「そうか? 物騒なのかフワフワしてるのかハッキリしないって、大不評だけど」
「誰がそんな事」
「俺」
無視されるかもしれないと思ったが、どうやら嫌われている訳ではないらしい。更に今度は、彼の方から話し掛けて来た。
「本当に忘れてたんだ」
「指導の事をか? ホントかよ。上手い事すっぽかそうとしたんじゃねーの」
「それはあんただろ。二階から飛び降りるなんて、よっぽどだ」
ごもっとも。
「でも、お陰で思い出した。ありがとう」
ザックスは思わず立ち止まった。そのせいで、教師に無駄に怒られてしまう。一行は、またすぐに歩き出した。
「指導を忘れてたから、思い出させてくれてありがとうだ? おいおい、ここは普通怒るとこだぜ。『お前のせいで見つかった』ってな」
しかも普通、指導に遅刻したくらいで特別指導にはならない。多分、指導と逃走の常習犯であるザックスと一緒に発見したから、まとめられてしまったんだろう。つまり、ザックスのせいで罪が重くなったのだ。何にしても感謝はされない筈だが、まあこれは黙っておこう。
「そう言ったらどうするんだ」
「こう返すね。『知るかアホ』」
クラウドが、声を上げて笑った。ザックスも驚いたが、それ以上に教師が驚いていた。どれだけ貴重なんだ、こいつが笑うのは。
「お前、それじゃあっ、どうすれば良いん、だよ」
「何だよ、そんなに笑う事か?」
「お前らいつの間にそんな仲良くなったんだ」
ザックスにもさっぱり分からなかった。
その後、二人はみっちり二時間、指導を受ける事となる。クラウドはさすがに不満そうだったが、やはりザックスに対する恨みの言葉は無かった。ザックスは彼に関して、とことん変な奴だという印象を強めた。
夏の終わり。それが二人の出逢いだった。
fin.