その他
□疑惑
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* * * *
「あ」
翌日、会社の帰り道。おれはまた二人を目撃してしまった。クラウドと、見知らぬ女の子だ。
クラウドはやっぱり楽しそうに笑っている。それを見て胸が痛む。
クラウドがこっちの方を振り返った瞬間、おれは咄嗟に身を隠し、歩き出した二人の後を、反射的に追ってしまった。
二人が進めばおれも進み、二人が曲がればおれも曲がった。完全に変質者である。
歩いているうちに、住宅街に入った。俺達の家は全く別の場所にある。ということは、二人は、彼女の家に向かっていることになる。
(嘘だろクラウド……)
いや、まだそうだと決まったわけでは――でもじゃあ何のためにこんな所に来たのか思いつかない。説明がつかない。
――浮気なんてしてないよ。
――大切にしてやれよ。
分かってる。分かってるさ。
でも。
また、二人が角を曲がった。おれも慌てて後を追う。と――
「何コソコソ付けてきてんの?」
「!」
角を曲がるとそこには壁があって。そろそろと顔を上げると、それはクラウドで。
「クラウド…」
クラウドが、仁王立ちで待ち構えていた。かがんで腰の低い俺を、威圧的に見下している。
どんな言い訳をするにせよ、この体勢は非常にマズイ。俺は今さら、ピシッと背筋を伸ばした。
「つ、付けるだなんて人聞きの悪い。ただ進行方向が一緒だっただけで…」
「だったら声掛けるよな、普通?」
うう、クラウドが怖い…。
「あの…」
突然、クラウドの後ろから声がした。あの、クラウドの友達(仮)の女の子だ。
うわ、近くで見るとめちゃくちゃ可愛い…。
「ザックスさん…? クラウドの保護者の」
「え? あ、ああ」
肩書きは一応、保護者かな。
「君は?」
「わたし、ティファと言います。クラウドとは幼馴染みで…あの」
彼女は律儀に頭を下げる。綺麗な黒い長髪が、肩からさらさらと落ちる。
「クラウドのこと、よろしくお願いします」
「ティファ、何言うんだよ」
「そ、そんな、こちらこそ」
俺がしどろもどろしていると、ティファは今度はクラウドに向き直り、
「送ってくれてありがとう。それじゃあ」
そうにっこり笑うと、少し先の黄色い家に入った。
クラウド、彼女を送ってあげてたのか…。
とんでもない勘違いをしていたおれは、気まずくてクラウドの顔を見れない。いや、それよりおれは、二人を尾行したことを謝らなきゃいけないんだ。
「あのさ、クラウド…」
ちらりクラウドを見る。彼は怒って、おれを見ようともしていなかった。
「お…俺達も帰ろうか」
嗚呼、情けない。