まるマ
□大地立つ――
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「過保護だなーコンラッドは」
その台詞なら前にも聞いた。
君と同じように、あの人も笑っていた。
大地立つ――
青い空に、白い雲は風に乗ってどこまでも流れていく。綺麗な花々も見える。ここはとても平和だ。今が戦時中だなんて忘れてしまう程に。
ふと視界の隅で淡い空色が動き、俺は彼女の存在に気付く。
「ジュリア!」
名前を呼ばれて、スザナ・ジュリアはこちらを振り返った。声の主を理解して、子供のような笑顔を見せる。
「コンラート。どうしたの、そんなに必死になって?」
「どうしたのじゃない。一人で外に出て、危ないじゃないか」
するとジュリアは、ふふっと小さく笑いをもらした。
「ああ、ごめんなさいコンラート。だからそんな拗ねた顔しないで」
言われて、俺は慌てて自分の顔に手を当てた。俺は今、どんな顔をしていただろう? いや、彼女の瞳にどんな風に映っただろう?
「コンラートは心配性ね。散歩くらい一人で出来るわ。…ねぇ、言ったでしょう?」
ジュリアは、色とりどりの花が咲き乱れる花壇へ一歩近づいた。そっと手を伸ばす。手が花に触れる。
「私は目が見えないけど、全く見えないわけじゃないのよ。確かに、色も形も分からないけれど……光も、影も、ここに花がある事も感じる。分かる」
「ジュリア…」
俺は、静かに彼女に歩み寄った。彼女の長い髪に触れ、静かに瞳を閉じてみる。視界が暗く閉ざされた。それでも、ジュリアは確かにここにいると感じる。確かに見える。
俺は目を開けた。
「アーダルベルトはこの事を?」
「いいえ」
ジュリアは当たり前のように言った。
「だってあの人、あなた以上に心配性なんだもの。いつもついて来てくれちゃうけど、たまには一人で、ね」
そう言ってにっこり笑う彼女を見て、俺は深くため息をついた。ね、と言われて、どう応えてやれば良いのやら。
「それにしたって、黙って出てきたのか? アーダルベルトだって、君の事が心配だからいつも……」
「あーもう!そうやって心配してくれる気持ちも分かるわ。感謝もしてる。でも、私にだって、一人になりたい時くらいあるわ。それに…」
ジュリアの真剣な表情に、俺は少したじろいだ。怒らせてしまっただろうか…?
「あんまり重いと、女の子にモテないわよ、コンラート」
そう言っておどけてみせるジュリアに、俺は拍子抜けしてしまった。ころころと表情を変えられて、ペースを乱される。
本当、魔女だよ、この人は。
「ジュリア、そろそろ戻った方が良い。みんな心配する」
「ええ、そうする。お腹も空いてきたしね」
そういう事じゃなくて。
言いかけて、すぐにその言葉を呑み込んだ。もう何を言っても無駄だろう。城に戻ると言っているし、気分が変わらない内に、帰さなければ。
「それじゃあ、さよならコンラート」
「待って、ジュリア」
背を向けて、去ろうとしたジュリアを呼び止める。彼女は、「なに?」と振り返った。
「城まで送るよ」
それを聞いて、ジュリアは一瞬きょとんとした。
そして、
「本当に過保護ね、貴方は」
そう言って、子供のように笑った。
Fin.