まるマ

□渋谷有利の事情
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「別に好きでもないでしょ、あたしの事。っていうか」

嗚呼女って怖い。変なところで変な勘が働くから。

おれは身構えながら、橋本の言葉を待った。

「他に好きな人いるんじゃない?」

嗚呼女って怖い!

橋本とは、先日勢いで付き合う事になった。元オナチューの同級生だ。成り行きとはいえ、一応は彼氏と彼女である。二人で遊びに出掛けている途中(で、デートとも言う)、昼食にふらり立ち寄ったバーガーショップで、まさかこんな話を持ち掛けられようとは。

「べ、別に好きって訳じゃ……」
「あ、いるんだ!」

しまった。

「駄目だよー、渋谷くんは嘘がつけないんだから。でもね、何もあたしは怒ってるんじゃないの。相談に乗ってあげようと思って」
「へ」
「何よその気の抜けた声は。だって最近元気無いんだもん、渋谷くん」
「そう、かな…」

いや、実際そうなのかも知れない。大好きな野球チームが負け続けた時も、去年の冬に失恋した時も、エイプリルフールにちょっとした嘘をつこうとした時も、全部悟られてしまった。

情けない程、おれは感情がすぐ顔に出てしまうタイプなので。

「だから、彼女にはなれなかったけど、親友のあたしが、その悩みを聞いてあげるの。一緒に悩んであげる」
「そんな、彼女になれなかっただなんて……でも、そうか。…ごめん……」
「よし、これで正式にふられたね!で、なに? やっぱ恋煩いなわけ?」
「……ほんと、参るよ」

おれは思わず笑ってしまった。それは、橋本が興味津々に尋ねてきたからじゃない。おれが女の子をふるだなんて、しかも他に好きな人がいるだなんて……。

そんな事、おれだって想像しなかったよ。

「ね、どんな子? 可愛い?」
「可愛い…かどうかは分かんないけど、優しくて、でも時々意地悪で、何でも知ってて、いつもおれを…助けてくれて……」

いつだって、おれの為に無茶をする。

「それって誰? あたしの知ってる人?」
「多分、よく知ってると思うよ」
「えーほんと? 渋谷くん、あたしの高校には知り合い居ないよね。じゃあ…元中? あたし、同じクラスだった?」
「……」

おれはさすがに言いよどんだ。だって、これを言ったらバレてしまう。橋本にではなく、もうこれ以上、自分の中の真実から目を逸らせなくなる。

「…あー、そこは答えられないか。そうだよね、さすがにもう……」
「同じクラスだったよ」

おれは橋本の言葉に被せるようにそう言って、それからぽつりと付け加えた。

「…おれと」

中二中三と、同じクラスだった。

その時はただそれだけの関係だった。喋った事なんてほとんどなくて、ただの眼鏡のガリ勉くんだと思っていた。















おれは村田が好きだ。

だけど……



(その先に進むなんて…出来ない)


Fin.

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