まるマ
□春が来る
1ページ/1ページ
幸せそうに笑う彼を見て、俺は思わず頬を緩めた。
春が来る
「何ニヤついてんですか隊長」
「俺は元々こういう顔だよ」
隣でヨザックが、またまたあ、と大袈裟に声を上げた。
「ルッテンベルクの獅子とも呼ばれた男が、ニヤけ顔が素面だと?世も末だねえ〜」
「楽しそうだな」
「あんたもな」
「違う、陛下の事だ」
俺がユーリから視線を逸らさないのを見て、ヨザックはバツが悪そうに鼻を鳴らした。
「へーへー確かに。ユーリ陛下ったら楽しそうだわー。でもなウェラー卿、あそこには陛下だけじゃなく猊下やグレタ嬢ちゃん、あんたの弟君もいるんだぜ。あんたには見えてないかも知れないが」
「承知しているよ」
ユーリは今、血盟城の中庭で、グレタ達と戯れている。俺達はその様子を、少し離れた所で見守っているのだ。
ユーリがまた、幸せそうに笑って、俺もまた頬が緩む。ヨザックが小さく溜め息をついた。
「大切だからってそればっかりに気を取られてると、いざって時に守れなくなるぜ」
春の訪れを告げるような風を合図に、ヨザックに顔を向ける。茶化すような口調の割に、彼の瞳は真剣で、俺はひと息ついてから応えた。
「承知しているよ」
「おーいコンラッドー!ヨザックー!」
そう声がして、ユーリが大きく腕を振り、こちらに呼び掛けて来る。
「手伝って欲しいんだけどー!」
どうやら、グレタに焼き芋を作ってやるらしい。もう春が来るというのに、突飛な事を言う人だ。
「顔がニヤけてるぜ、隊長」
ほっとけ。
fin.