まるマ

□春が来る
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幸せそうに笑う彼を見て、俺は思わず頬を緩めた。



春が来る




「何ニヤついてんですか隊長」
「俺は元々こういう顔だよ」

隣でヨザックが、またまたあ、と大袈裟に声を上げた。

「ルッテンベルクの獅子とも呼ばれた男が、ニヤけ顔が素面だと?世も末だねえ〜」
「楽しそうだな」
「あんたもな」
「違う、陛下の事だ」

俺がユーリから視線を逸らさないのを見て、ヨザックはバツが悪そうに鼻を鳴らした。

「へーへー確かに。ユーリ陛下ったら楽しそうだわー。でもなウェラー卿、あそこには陛下だけじゃなく猊下やグレタ嬢ちゃん、あんたの弟君もいるんだぜ。あんたには見えてないかも知れないが」
「承知しているよ」

ユーリは今、血盟城の中庭で、グレタ達と戯れている。俺達はその様子を、少し離れた所で見守っているのだ。

ユーリがまた、幸せそうに笑って、俺もまた頬が緩む。ヨザックが小さく溜め息をついた。

「大切だからってそればっかりに気を取られてると、いざって時に守れなくなるぜ」

春の訪れを告げるような風を合図に、ヨザックに顔を向ける。茶化すような口調の割に、彼の瞳は真剣で、俺はひと息ついてから応えた。

「承知しているよ」
「おーいコンラッドー!ヨザックー!」

そう声がして、ユーリが大きく腕を振り、こちらに呼び掛けて来る。

「手伝って欲しいんだけどー!」

どうやら、グレタに焼き芋を作ってやるらしい。もう春が来るというのに、突飛な事を言う人だ。


「顔がニヤけてるぜ、隊長」




ほっとけ。



fin.

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