まるマ

□近寄らないで
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「ぎゃ」

エイプリルは短く声を上げた。

「どうした」
「リチャード、ちょっと来て」
「俺はリチャードじゃ…」
「良いから」

デューターは渋々(本当に渋々)、読みかけの本を置いて、彼女の傍に立つ。

「なんだ」
「髪の毛が、ピアスに引っかかっちゃって。取ってくれない?」
「お前、そんな事で…」
「あらー、良いの? ありがとうリヒャルトー」

棒読みでそう言って、エイプリルは調子良くデューターに微笑みかけた。

なんだかんだ言っても彼は優しいから、結局はエイプリルの頼みを聞いてくれる。だから彼女も頼ってしまう。

「はあ…動くなよ」

ほらね。

「えーと、どこが引っかかってるって?」
「あ、痛っ、ちょっと!」
「変な声を出すな!」
「ならもうちょっと優しくしなさいよ」
「お前はもう少し謙遜とか遠慮という言葉を知れ」
「貴方に何を遠慮する必要があるのよ…あっ」

引っかかりが取れた。

「ありがとう、リチャー…」

エイプリルに自然と笑みがこぼれた瞬間、デューターは彼女の耳に音を立ててキスをした。

「さ、終わったぞ」
「貴方、何して…」
「遠慮しなくて良いんだろう?」

そういう意味じゃなくて!

と彼女が反論する前に、デューターはまたもや顔を近付けて来た。とっさに手の平でガードする。

「け、ケダモノっ」
「耳にキスでケダモノか…」
「もう、信じらんないわ。この先1ヶ月、半径1m以内に入って来ないで!」
「1ヶ月我慢すれば良いんだな?」
「金、輪、際!」



近寄らないで



(ドキドキするから…)



fin.

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