まるマ

□BABY BABY
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「渋谷!」

という村田の声でハッと我に帰る。

ボーっと周りを見ていると、巨大なコーヒーカップが目に入った。ちょっと見上げれば、遠くの方にジェットコースターのレールも見える。その後ろには観覧車。人ごみ。

遊園地…?

「どうしたの、ボーっとして。疲れた?」
「え? いや、ていうか…え!?」

心臓が飛び跳ねた。

村田の顔が近いことにはただドギマギするばかりだが、何か違和感を感じて自分の右手に目を落とすと、なんと村田と手を繋いでいる。それもただ繋いでいるのではなく、指と指が絡み合っている。所謂『カップル繋ぎ』。

「なななな何でカップル繋ぎ!?」
「あ、酷いなー。『せっかくだからカップルらしいことしようぜー』とか言って、君が絡ませて来たんだろー」
「え…」

全く記憶に無かった。そんなことを言ったことも、何でいきなり遊園地にいるのかも、覚えていない。何だか胸がざわついた。

どうやってここまで来た? 今日はいつ始まった? この大きな違和感は何だ?

何で…

「カップル…?」

何で村田とおれが付き合ってるんだ!?

「もー、そういう冗談良いから。今日は僕らの1周年記念だろ?」
「1周年って、何が?」
「“交際1周年記念”!渋谷、本当に疲れてる?」

おれは呆然と立ち尽くした。

立ち尽くすおれの横を、何組ものカップルが通り過ぎて行く。すれ違い様に「可愛いカップル」とくすりと笑われた。それは嘲笑ではなく、『微笑ましい光景』を見た時に出る、温かい笑いだった。

認められてる!?

「ね、あそこのベンチ空いてるよ。ちょっと一休みしよう」
「あ、ああ…」

何が何だか分からなかった。

確かにおれは村田が好きだった。それは友情としてではなく、男として、恋愛対象としての意味だ。離れていれば会いたくて、彼の声が聞きたくて、彼に触れたくて、彼をどうにかしてしまいたくて…妄想の中では確かに彼と付き合っていたけれど。

もしかして、想いが溢れた勢いで告白したのが成功してしまったのだろうか? “勢いで告白”は、おれなら十分あり得る話だ。いや、でもそんなことが上手く行く筈……しかし実際、こうしておれ達は付き合っている。

「…なんか夢みたいだ」
「え?」

ああそうか、これは夢だ。そうに決まってる。こんな幸せなこと、現実なもんか。妄想ばっかりしていたから、それが夢にも反映されてしまったんだ。なんてアホらし。

証拠に手の甲をつねろうとしたら、村田がおれに寄りかかって来た。くすぐったい温かさが肩に伝わる。

「そんなに幸せ?」

そう尋ねる彼があまりに愛しく感じられて、おれはたまらず彼の頭にキスを落とした。村田のふわふわした髪が顔に当たる。幸せな感触だった。

「幸せだよ。村田、大好きだ。大好き…」
「うん…僕も」

村田が顔を上げた。至近距離で視線が合わさる。

「僕も、大好き…」

そう言って彼は瞳を閉じた。


キスを求められている。




BABY BABY
抱き締めてくれええええええ















お袋の声で目が覚めて、おれは思わず、泣いた。














結局夢オチ。


銀杏BOYZの「BABY BABY」からのインスピレーションを基に書きました。

10.06.14



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