まるマ

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「あの2人、何だったんだろうな」

村田が歩み寄ってくる気配を背中に感じて、ユーリが呟いた。

あの後、ヨザックは顔を真っ赤にして走り去り、ウェラー卿はそれを追った。ぽつり取り残されたユーリは、呆然とそちらを見つめるばかりだ。

「実は仕掛けたのはウェラー卿の方なんだよ。翻弄されるグリエも可哀相に…」
「仕掛けたって、何を?」
「……」

しばし絶句。

「え、何?」
「いやいや、君は君のままでいてね」
「え、何その生暖かい眼差し…ええ、何なに!気になるだろそういう言い方されると!」
「僕に言わせれば、“さっさとくっつけ!じれったい!”って感じだったんだけどねー。ようやっと進展が見られそうだ」
「くっつけって、何!?」













「ヨザック!」

言葉と同時に、手首を掴まれた。

やっと捕まえて貰えた安堵と、ついに捕まってしまった不安が一気に訪れた。そして不安の方が勝ってしまった俺は、その手を何とか振り解こうともがく。

「離してくれ」

しかし、もがけばもがく程、強く手を握られる。まるで蟻地獄のように、逃れられない。

そのうち、壁際に追い詰められ、おかしな大勢になる。

「隊長は知らないかもしれないけど、俺のハートはガラス製なんすよ」
「知ってるよ。それにいくつも傷を付けたのは…俺だ」

優しい声でそんなことを言うから、俺は溜まらなくなる。

「…そんな気も無いくせに、これ以上俺を惑わすな!」
「決めつけるな」
「決めつけるなって、何だよ。そう言って期待させるだけ期待させて、あんたは平気で坊ちゃんの所へ行くんだ。それで、馬鹿みたいにかっこいい顔で、優しく微笑んだりして……」

大の男が泣く訳にもいかないので、俺はただただ喚き散らした。

すると奴は、低く、呟いた。

「お前だって猊下の所に行くだろう」

何故か、悲痛そうに顔を歪めた。泣くかと思ったが、そんな訳も無く。

「お前だって、猊下の前で、見たことも無いような笑顔を見せるだろうが。それに何だ、この前の……」
「は?」

一瞬、本気で何のことを言っているのか分からなかった。しかし、すぐにそれに思い当たる。

――付き合っちゃいます?

「…あんなの、ただの冗談でしょう」
「分かってる」
「なら、何でそんなに食い付いて来るんだ」

どうして、こんなキス出来そうな距離で、そんな勘違いするようなことを言うんだ。

「…離してくれ」
「ヨザック」
「ほっといてくれ!」
「ヨザ!」

信じられない程の至近距離で、目と目が合う。奴の瞳に映る自分が見えた。とても情けない顔をしていた。

そのまま唇を重ねられる。



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