まるマ
□君の名を呼びたい
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暗闇が怖かった。
「ヴォルフラム」
不安になって、おれはまた名前を呼ぶ。何度目かのこの呼び掛けに、彼は気を悪くした風でもなく応えてくれた。
「何だ」
多分、見えないのを良い事に、思いっきり顔を歪めてはいないだろう。それだけは分かった。
「何でもない」
「そうか」
そうしてまた静寂が戻る。さっきからこの繰り返し。何を言いたいのかは分からない。でも、何かを言わなければ気が済まない。いい加減自分でもうんざりするけど、どうしようもない。
暗闇が怖かった。こんな事言うと小さな子供みたいだけど。もちろん、お化けに会ったら怖いとか、そういう可愛い理由なんかじゃない。……また、あの悲劇を繰り返しそうで、怖い。
視力を失っていたあの短い時間、おれは確かにこの手でヴォルフラムを斬りつけた。 あの感覚が、あの瞬間ごと切り取って貼り付けたみたいに忘れられない。今日みたいな闇夜が、光の無い景色が、どうしてもあの場面に繋がってしまう。
だからおれは不安になる。そこにいるのが確かにヴォルフラムである事を確かめる為に、何度もその名前を呼ぶ。
「…ヴォルフラム」
「ユーリ」
突然、今度は逆に名前を呼ばれた。驚いて返事も出来ないままでいたら、
「大丈夫だ」
「……」
お前が傍にいて良かった。