まるマ

□君の名を呼びたい
1ページ/1ページ


暗闇が怖かった。

「ヴォルフラム」

不安になって、おれはまた名前を呼ぶ。何度目かのこの呼び掛けに、彼は気を悪くした風でもなく応えてくれた。

「何だ」

多分、見えないのを良い事に、思いっきり顔を歪めてはいないだろう。それだけは分かった。

「何でもない」
「そうか」

そうしてまた静寂が戻る。さっきからこの繰り返し。何を言いたいのかは分からない。でも、何かを言わなければ気が済まない。いい加減自分でもうんざりするけど、どうしようもない。

暗闇が怖かった。こんな事言うと小さな子供みたいだけど。もちろん、お化けに会ったら怖いとか、そういう可愛い理由なんかじゃない。……また、あの悲劇を繰り返しそうで、怖い。


視力を失っていたあの短い時間、おれは確かにこの手でヴォルフラムを斬りつけた。 あの感覚が、あの瞬間ごと切り取って貼り付けたみたいに忘れられない。今日みたいな闇夜が、光の無い景色が、どうしてもあの場面に繋がってしまう。

だからおれは不安になる。そこにいるのが確かにヴォルフラムである事を確かめる為に、何度もその名前を呼ぶ。

「…ヴォルフラム」
「ユーリ」

突然、今度は逆に名前を呼ばれた。驚いて返事も出来ないままでいたら、

「大丈夫だ」
「……」



お前が傍にいて良かった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ