まるマ

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ゴッとすごい音がしたと思ったら、目の前で村田が机に突っ伏していた。手にはグラスを持ったまま。名前を呼んでも反応は無い。今日誕生日を迎えたばかりの友人は、おれがあれだけ注意したにもかかわらず、どうやら潰れてしまったらしい。

どうして良いか分からずにあたふたしてたら、店員さんが声を掛けてくれた。「救急車呼びましょうか?」とも言ってくれたけれど、村田はただ眠っているだけだったので、とりあえず水だけ貰っておいた。

ピッチは早かった……気がする。親父か勝利が飲んでるところくらいしか見たことがないからよく分からないけど。でも、いつもよりはしゃいでいたというか、テンションは高かったように、思う。何がそんなに楽しかったんだか……。

「何やってんだよ…」

スヤスヤ眠る彼の髪に触れる。触れてから、そういえばさっきもこうして触ってた気がするな、と一人で笑ってしまった。

癖――か。

青い魔石に触る癖も、今日初めて知ったけれど……それを指摘した彼が、髪に触れる癖を指摘しなかったのは、自分の髪をもっと触っていてほしかったからじゃないか、指摘したら、おれは触るのを止めるから――なんて都合の良い解釈を浮かべ、俺はまた笑った。自嘲の笑いだ。

ついでに、首飾りに触る癖を指摘した彼が若干不機嫌そうに見えたこと、そしてそれはもしかしておれの名付け親への嫉妬なんじゃないか――と勘繰ったことも白状しておく。とんだお笑いだ。

「そんなわけあるかっての」

そう、そんなわけない。そんなのは――村田を好きなおれの、単なる欲目でしかないんだから。

ため息。

正直、「2人で飲みに行こう」と誘われた時は、心臓が跳ねた。別に、2人で出掛けることはよくあることだし、驚かない。飲み屋に行くことも、大学の友達の付き添いで慣れているから、抵抗は無い。

だけど。

だけど、今日は村田の誕生日で。20歳の、誕生日で。節目で。特別な日で。おれなんかが一緒にいて良いのかって話で。

また、ため息。

(告白でも、されるかと思ったのにな…)

もしくはしようと思った。なのに肝心の相手が潰れてしまって…まったく、本当に、何やってんだよ、村田。

いや。

結局言えなかっただろうなんてことは目に見えてる。顔を見た瞬間に怖じ気づいた。笑顔でおれを信頼してくれる目の前の友人を失うことが怖くなった。20歳の誕生日に男から告白されるなんて、村田にしても迷惑極まりないだろうし。結局告白なんて出来なかった。

いつまでもおれは、防波堤の上で動けずにいる。

――それに僕はお前が良い。

その言葉だけで十分だなんて思ってる。

「すいませんお客様――」

そう言って、さっきの店員が近づいてきた。

おれ達の2時間が、終わった。


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