その他
□あなたの言葉で
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「嫌です!」
そう言って飛び起きて、俺は思いっ切りヒロさんと衝突してしまった。鈍い痛みに頭を抱える。
「何が嫌だって?」
「ヒロ…さん?」
顔を上げるとヒロさんが、俺と同じように頭を抱えていた。ぼうっとする頭でさっきの夢を思い出して、あの言葉に辿り着く。
あの一言に俺は凍りついた。でもあれは飽くまで夢なんだと、俺は自分に言い聞かせる。
「人がせっかく布団掛け直してやっ……野分?」
現にこうしてヒロさんは目の前にいるじゃないか。そして俺に向かって話している。
夢である事は分かっている。分かっているけど、さっきから動機が止まらない。
俺は無言で、ヒロさんを抱き締めた。
「のわ…」
「さよならなんて、言わないで下さい…」
「……」
あなたのたった一言が、俺をこんなに弱くした。
あなたのたった一言が、俺のこの上ない程の絶望になった。
だって、やはり今でも思ってしまう。
――ヒロさんは、本当に俺を好きでいてくれるだろうか?
ふと、背中にぬくもりを感じて、俺はヒロさんに抱き締められた。
そして、
「―――」
ヒロさんの言葉に、俺は思わず顔を上げた。瞬間、ヒロさんの顔が真っ赤に燃え上がったから、聞き間違えでは無いらしい。
「な、なんてな!だはははは!いいい今のは冗談だ!忘れろ」
そう言って走り去ろうとして、ヒロさんは壁に激突してしまった。うずくまるヒロさん。
俺はすかさず、ヒロさんに飛びついた。
「ヒロさん!俺、ヒロさんの事大好きです!」
「は、離れろバカ野分!」
「嫌です!」
「ああ!?」
『俺がお前を離さないから、大丈夫』
とても小さな声で、ヒロさんは確かにそう言った。
その言葉を聞いた瞬間、俺はあんな夢の事なんて忘れて、ヒロさんしか見えなくなったんだ。
ヒロさん、俺は、
あなたの言葉で
(知ってますか? こんなにも強くなれる事)
fin.