その他

□出逢い
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「あ」

と思った時にはもう遅く、ザックスはそのまま人影の上へと落下してしまった。しかしとっさに体を捻ったおかげで、最悪な形での衝突は避けられた。…その分ザックスのダメージが増えた訳だが。

「痛ってぇ…」

ザックスの体の丈夫さは、自身も認める程だ。だからちょっとやそっとの事故では大事に至らない。そのせいで周りから滅多に心配してもらえない事が、ザックスはどうにも腑に落ちない。痛いものは痛いのだ。

しかし、今はそんな事で不貞腐れている場合ではなかった。いつものようにちょっと無茶をしただけだが、例え今自分が大怪我を負っていたとしても、関係ない。――人を巻き込んでしまった。

呻き声がして、ザックスはぎょっとして振り返った。

「だ…」

大丈夫か、と言おうとして、ザックスは途中で言葉を失った。そこに倒れていたのは、金髪の青年だった。

顔はよく見えなかったが、知り合いではないと思った。これ程見事な金髪を、ザックスは見た事が無かったからだ。

ただの金髪ではない。はっとする程綺麗な髪だ。

「俺の顔に何かついてる?」
「え?」

いつの間にか、青年は起き上がっていた。ザックスは、無意識に彼の顔を凝視していた事に気付く。

「い、いや。失礼」
「そんなに見つめられても困る」

冗談めかす風でもなくそう言われて、ザックスはきまりが悪くなった。

青年が、読みかけだったらしい本を拾い上げた。土埃を払うその手がまた白かった。Yシャツに、髪の色に、溶け込むように白く、ザックスはまたも目を奪われる。青年が息をついた。

「さっきから何なんだ? あんた誰」
「え? 俺はザックス…」
「あんたの名前なんか興味無い」

ザックスは思わず顔をしかめた。なんだ、こいつは。初対面の人に対して、今の言い種はあまりに失礼ではないか。

しかし、青年が自分の右肩を押さえて、

「痛かったんだけど」

と言ってきた時には、ザックスは「あ!」と叫んだ。重大な事を忘れていた。

そうだ自分は、“初対面の”この青年の上に着地してしまったのだ。それなのに謝罪も忘れて彼に見とれたりして、失礼な奴だと憤慨して……こっちの方が最低だ。

「すまん! 怪我とかしてないか? 肩、大丈夫か?」
「良いよ。実はどこも痛くないし」

青年はけろりとそう言って、涼しい顔でぐるりと肩を回して見せた。やっぱり憎たらしい。

「でも…顔色かなり悪いぞ」

そう、顔色が悪いと言うんだ、これは。あまりに血の気が無さ過ぎて、むしろ美しくさえ見えた。美しく、儚い。まるで雪のようだ。

ザックスが再三見とれそうになっていると、青年が小さく笑った。ああ、笑えるのか、と頭の隅で思った。 

「よく言われるよ。でも、これで健康なんだ。きっと雪国で育ったから、雪が染み込んだんだな」

その言葉を聞き、ザックスは思わず笑ってしまった。

「あ、ははっ」
「なんだよ、気持ち悪い」
「気持ち悪いは余計だ。いやあ、俺も今『雪みたいだなー』と思ってたところでさ。ビンゴだな」

青年がそっけなく「そうだな」と応えた。

「あんた、名前は?」
「興味無いんじゃなかったのか?」
「ちょっとだけ湧いてきましたよ、ザックス先輩」
「なんだ、知ってるじゃん」
「今思い出した。三年の問題児」

「問題児ってなんだよ」とザックスが言い返そうと口を開いた瞬間、


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