その他
□顛末
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大体クラウドは神経質すぎるんだ。
帰りが遅くなるのなんて当たり前なのに。仕事をしてれば残業だってあるし付き合いで飲みに行くこともある。ストレス解消にプロの姉ちゃん達に遊んでもらうことだってあるさ。そんなことを一々気にされてたら、こっちの我慢だって限界が来る。ううん、今回こそは本当に頭に来た。
こういう喧嘩は別に初めてじゃない。
大概クラウドがつまらないことにごねて、俺が腹立てて家を飛び出して、頭の冷えた俺が家に帰って泣いてるクラウドを抱き締めて、っていう流れで俺達の喧嘩は幕を閉じる。
今回も例に漏れず、クラウドの嫉妬がことの発端な訳だが、いつもと違う点を挙げるとすれば、それは家を飛び出したのが俺じゃなくてクラウドの方だっていうこと。いつも煮え切らず、ぶつぶつと文句を言うだけのクラウドが、今日は珍しく怒りをあらわにした。呆気に取られてる俺を後目に、彼は部屋を――家を出て行った。
あれから一時間。
連絡も無いし、帰ってくる気配も一向に、無い。いつもなら俺が頭冷やして帰って来る頃だ。それは同時に喧嘩の収束を意味する。だけど今日の喧嘩はまだまだ終わらない。だって家を飛び出したのはクラウドの方で、彼はいつまで経っても家に帰って来ないんだから。
――俺と仕事と、どっちが大事なんだよッ!
クラウドの言葉を思い出す。
そんなことを言われても、仕事は仕事で大事だし、クラウドのことだって勿論大事に決まってる。そもそもその二つの大事さは全く別の種類で、別の話で、別の次元で。それを比較すること自体おかしいだろうが、と冷静な頭で考える。
思えば俺達は出会いからおかしかった。
会社帰り。喧嘩があったらしく、そんなに広くない道を警官と野次馬が塞いでた。ちょっとした好奇心で覗いたら、当事者の一人が知り合いの息子だった。ちゃんと話したことは無かったけれど、知らんぷりも出来なくて(目合っちゃったし)、その場はとりあえず保護してやった。
『家に帰りたくない』と言う彼を何日か家に泊める内、懐かれてしまって、俺も彼を愛しく思うようになってしまって、そのまま、なし崩しに……。
最初は、何て面倒事を引き取ってしまったんだろうと思った。ろくに喋らないし、ろくに笑わない。目も合わない。
いい加減家に帰そうと話を切り出した。思えばあれが初めての喧嘩だった。クラウドは『家に帰りたくない』ばかりを繰り返した。
「家に帰りたくない」
「それでも、こんなよく知らないオッサンの所にいて文句言われるよりマシだろ。俺だって迷惑だ」
「家に…帰りたくない」
余計に寂しいから。
クラウドは泣きながらそう言った。家庭の事情ってやつも――家に帰りたくない理由も話してくれた。
彼の涙を見て自分の気持ちに気付いた俺は、肩を抱いて彼をあやし、目が合った瞬間にはもう口付けていた。
それから一緒に暮らして分かったこと。クラウドは根っからの不器用で、ただの言葉足らず。本当は甘えたがりで、笑った顔がめちゃくちゃ可愛い。人一倍寂しがり。
つまらない嫉妬も、するさ。