その他

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デンゼルは怒っていた。ティファが、あんな薄情者だとは思わなかったからだ。思い出すだけで腹が立つけれど、この憤りを分かってくれそうな人もいない。

はじめは、マリンに話そうかとも思った。でも、だめだ。マリンはきっとティファに味方する。そう、女は信用出来ない。

いつもなら、デンゼルは悩む事なんかなかった。迷わず、男同士、クラウドに話を聞いてもらう。彼なら自分の事を分かってくれるし、少なくともちゃんと話を聞いてくれる。

しかし、今はそれが出来ない。デンゼルが怒っているのは、元はと言えばクラウドのせいなのだ。

最近、クラウドの様子がおかしい。

その事をティファに相談したら、「クラウドがおかしいのはいつもの事でしょ」と軽く返されてしまった。

「そうじゃなくて……ティファだって本当は分かってるだろ?」
「さあねぇ」
「こないだなんかクラウド、鼻歌うたってたんだ」

鼻歌をうたいながら、部屋の掃除をしていた。デンゼルは何かおぞましいものを見たような気になって、静かにその場を後にしたのだった。

「おれ、クラウドの鼻歌なんて一生聴けないと思ってた…」
「貴重な体験ね。良かったじゃない」
「ティファ!」
「もう寝なさい、デンゼル」

そう言って額にキスをされた。まともに取り合おうとしない彼女を、デンゼルは不服そうに睨み付ける。ティファはやれやれと息をついた。

「女装して敵陣に乗り込むような人が、今更何したって驚きませんよーだ」

デンゼルは絶句した。

「…こんな時にふざけるなんて信じられない」
「本当なんだけどなぁ…」
「ティファなんてもう知らない!」

そう言ってティファの手を振りほどくと、デンゼルは部屋に引っ込んでしまった。ティファが「おやすみ」と言うのが聴こえたけれど、返事をする代わりに扉を勢い良く閉めて応える。少年は、少年らしい怒り方しか知らない。

そのままベッドに突っ伏す。

(ティファは薄情者だ。クラウドがおかしい事分かってるくせに、放っておくなんて)

幼馴染なら、もう少し気に掛けてやっても良い筈だ。そのくせクラウドを甘やかすんだ、ティファは。デンゼルはすっかり不貞腐れてしまった。

本当は分かっている。こんなのただの八つ当たりだ。このところクラウドはおかしい。だけどその理由が分からない。

何もできない自分に憤って、ティファを責めてもしょうがない。それは分かってる。けど。いや、それでも。

だけど。

下の方から、カチャカチャと食器を洗う音が聞こえた。ティファが店の片づけをしている音だ。

ティファの顔が浮かんで消え、クラウド、マリンの顔が浮かんで、消えた。

クラウドの声が聴こえた気がした。




デンゼルはいつの間にか眠ってしまった。



つづく

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