その他

□疑惑
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それは夕飯の後の何でもない時間の出来事。

俺は意を決して口を開いた。

「クラウドは、他に好きな人いないの?」

ああ、こんな直球でどうする。

「は? いないよ」

案の定、クラウドは怪訝そうに俺を見ている。

「ザックスはいるんだ?」
「お、俺はいないよ!」
「“俺は”ってなんだよ? 俺だって、ザックス以外に好きな人なんているわけないだろ」
「…」

おいクラウド、お前今さらりとすごい恥ずかしいこと言ったぞ。

「で、何が言いたいわけ?」
「いや、何でもないです…忘れて」
「俺にやましいことがあるんだ?」
「ち、違う!断じて違うぞ!」
「じゃあ言ってよ」
「ほんとに何でもないんだって」
「だから、じゃあ言えば良いだろ」
「だから、何でもないって言ってるだろ!」

そしていつものようにケンカが始まった。






「それからアイツ、一言も口利いてくれねーの」

隣でカンセルがため息をついた。呆れているのだ。

「お前も不器用な男だな」

一口グラスを煽ってから、

「もう少し上手く誤魔化せよ。ただでさえ女の子ってそういうの敏感なんだから」
「あ、ああ…」

さすがに、男と付き合ってるとは(しかもほとんど拾ったようなもので、それも知り合いの息子だなんて)言えない。だからクラウドは女の子ってことになってる。

…怒るだろうな、クラウド。

「それで、どうしてそんなこと聞いたんだ?」
「…」

あんなことを聞いたのには、もちろんちゃんと理由がある。その理由を思い出して、俺は気分が沈みながらも口を開く。

「確信は、無いんだけど…」
「うん?」
「浮気現場を目撃したかもしれない」

クラウドが、見知らぬ女の子と歩いていた。ただ歩いてるだけじゃない。楽しそうにお喋りしながら、笑ったり、拗ねたり――笑ったり。

あのクラウドが。

「それのどこが浮気現場だよ」
「だってアイツ、最初全然笑わなかったんだよ!だんだん心を開いてくれたみたいで、最近はいろんな表情が出るようになったけど…」

だからって、あんな笑顔は見たことが無い。

「ふーん」
「な、な、やっぱ怪しいだろ? 俺、どうしたら良いかな?」
「うーん…目撃されたのがお前だったら、十中八九浮気現場だけどなぁ」
「俺は浮気なんてしたことないぞ」
「彼女は浮気なんてしてないよ」

彼女――というのはクラウドのことだ。

「…どうしてそう言い切れる?」
「んー」カンセルがグラスから口を離さずに言うから、グラスの中で声がくぐもる。「別に根拠は無いけどな」
「な…んだよそれ…ッ!」
「疑う根拠も無いだろ」

俺は一瞬、言葉に詰まる。

「だって、それは…」

クラウドが、女の子と…

「一緒に歩いてただけ…か」
「だろ?」
「でっ、でもでもッ!めちゃくちゃ楽しそうだったぞ!?」
「大学生だっけ、彼女? そりゃあ、おっさんと話すよりお友達と話してる方が楽しいだろうさ」
「…」

グラスを置いて、黙り込む。

「納得できないって顔だな?」
「いや、でもなんか…モヤモヤする」

俺より友達(仮)と話す方が楽しい、か。それは分かる。分かるけど――じゃあどうしてクラウドは俺の傍にいるんだろう。しょうがなく一緒に住んでると言われたらそれまでだけど、じゃあクラウドにとって、俺って何なんだ?

「…捨てられたらどうしよう」

カンセルが笑った。

「ザックス、俺は嬉しいよ」
「人の不幸は蜜の味ってか」
「いや、軟派なお前がようやく落ち着いてさ」
「何じいさんみたいに悟ってやがる。俺のどこが軟派だよ」
「軟派はお前の代名詞だろうが」

心外だ。

おれは飲み干したグラスを煽り、氷を口に含む。

「とにかくその――何て言ったっけ、彼女?」
「……クあウディア」

ごめんクラウド。

「そう、クラウディアちゃんのこと、大切にしてやれよ。せっかく本気で好きになったんだから」
「…」

氷を噛み砕いて、一言。

「言われなくてもそうするよ」



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